健康リスクを考えて、たばことうまく付き合っていくにはどうしたらいいのか……。そんな悩みに応えてくれる「たばこハームリダクション」が、いま注目を集めている。
茂木 僕の場合、たばことは付かず離れずの関係なんですよ。誰かが吸っていると、自分も一本もらって、一緒に吸おうかなって感じですね。
山崎 僕は一回も吸ったことがないんですよ。
茂木 でも、昭和を舞台にした作品では、よく喫煙シーンが出てきますよね。
山崎 映画の中では、喫煙シーンというのが、ある時代の象徴になっているんです。現代を描くんじゃなくて、過去を描いていますよという意味のアイコンなんです。
茂木 時代とともに、たばことの付き合い方も変わりますからね。
山崎 最近は、紙巻きたばこから加熱式たばこに切り替えるという人が多いですよね。
茂木 嗜好品って、それを一気にやめようとすると、脳へのストレスになることがあります。だから、完全にやめるという選択肢以外に、健康への悪影響を最小化しつつ、嗜好品に対する愛とか習慣を維持するという考え方もあるんです。それが「ハームリダクション」。たばこに関しても、より健康リスクの小さい代替製品に切り替えることを「たばこハームリダクション」と言うんです。
山崎 今回、資料を読んで初めて知ったんですが、たばこの害のほとんどは、たばこの煙に含まれる有害物質によるもので、ニコチンそれ自体によるものじゃないそうですね。目からウロコでした。それなら、加熱式たばこのような非燃焼式の商品に切り替えることに意味がありますね。
茂木 たばこを一切やめることで、そのリスクをゼロにしましょうという考え方もあります。しかし、禁煙できない場合は、次善の方法として嗜好品を楽しみながら、その悪影響を減らすという考え方があると思うんです。嗜好品というのは、何かちょっとホッとする“安全基地”みたいなものですから。
山崎 僕もコーヒーと甘いものはやめられないなぁ(笑)。
茂木 最初から一〇〇パーセントを求めるのはよくないんですよ。健康のために歩いたりするのがいいといっても、朝起きて雨が降っていたら、きょうはちょっとウォーキングやめようかなと思うこともあるじゃないですか。それでもOKなんです。
山崎 何かちょっと楽にするだけで、人ってすごく習慣性が上がるっていうのを聞いたことがあります。一〇〇やろうとするとだめだけど、八〇くらいにハードルを下げると、ずっと続けられる。ちょっとぬるいくらいの、“いい加減”がいいのかもしれないですね。
茂木 真面目な人にありがちなパターンですが、何か始めようと決心して、三日坊主で終わってしまうことがありますよね。そこで、「ああ、自分はダメだ」と一切やめてしまう。そうじゃなくて、できるところからもう一度やってみる。それがベストエフォート(最善努力)方式です。健康への悪影響を減らそうという「たばこハームリダクション」は、禁煙が難しい場合のベストエフォートですよ。
「プランB」としてのたばこハームリダクション
山崎 やれる範囲でまずやってみるって大切ですね。撮影の現場なんて順調に行くわけがなくて、いろんな障壁が発生してくるんです。じゃあ、それをこう組み替えて、これをあそこでこうやって撮ろうとか、その場で決めることもよくあります。いろいろ工夫して、なんとか最善の方向へ持っていくというのは、メッチャ燃えますね。僕は大好きです。脳内に快楽物質が出ているんですかね(笑)。
茂木 ドーパミンが出ているんでしょう(笑)。監督のように、常にいろいろな状況を想定して、複数の選択肢を思い描く訓練をしておくことが大切なんです。そうすることで、どんな状況でも落ち着いて対応できる。プランBは常に用意しておいたほうがいい。
山崎 それは決して退却ではないですからね。プランBはプランAができなかった時に、新たな変化をもたらします。第一作の『ゴジラ』も、そうです。海外との合作映画の企画が途中で立ち消えになって、急遽別の映画をつくらないといけなくなった。そのころ世の中は、水爆実験で犠牲になった第五福竜丸のニュースで騒然としていた。で、よし、これだ、と。初代ゴジラはプランBだったんです。
茂木 たばこに関していえば、禁煙というプランAに対するプランBとして「たばこハームリダクション」という選択肢があるわけです。僕は、すべて人生の答えはグレーだと信じているんですよ。白黒、ゼロイチではなく、その中間に答えは隠されているんです。
提供:BATジャパン
photograph:Miki Fukano
design:Takayoshi Ogura