カットに関する報道で私が気になったのは、彼女の安楽死を承認した保険会社の書類にある「患者のカルテは長く、患者のニーズと経済的制約に適した治療の選択肢も介入も他には存在しない」というくだりだ。「本人が許容できると考える条件下では軽減できない」耐え難い痛み苦しみがあることというMAIDの要件に「苦しみを軽減する手段が経済的に許容できない」ことまで含意されていくと、合法化の際にどれだけの人が予測できただろうか(太字は筆者)。
「非常に安直な問題解決を提供している」と医師から批判も
ソフィアの事例を報道で知り、連名で連邦政府の障害のある人の住まいを担当する部署に書簡を送った4人の医師たちがいた。ソフィアの症状は空気のきれいな環境に移ることで軽減されたはずだと述べて「われわれは医師として、この状況にMAID以外の解決策が提案されなかったことを受け入れがたいと考えます」と書いた。
デニスの治療に当たっている医師のリイナ・ブレイもメディアの取材に「社会はこうした患者を裏切っています。MAIDが提供している、この非常に安直な問題解決をストップし、これらの人々に必要なのは支援だと社会が認識し始めることを望みます」とコメントした。
彼らのように、難病や障害ゆえに生きづらさを抱える患者のそばに寄り添い、適切な支援を求めて八方手を尽くし奔走する医師たちがいる。支援があれば生きられる人に安楽死の要請が認められたことを憤る医師たちだ。その一方に、こうした患者たちからの安楽死の要請を専門性の名のもとに簡単に承認してしまう医師たちもいる。
2019年4月にカナダを公式訪問して聞き取り調査等を行った国連の障害者の人権に関する特別報告者は、「施設や病院にいる障害者にMAIDへの圧力がかかっている、また医師らが障害者の安楽死を公式に報告していないとの気がかりな報告が届いている」と報告書に書いた。
著述家、一般社団法人日本ケアラー連盟代表理事
1956年生まれ。京都大学文学部卒。カンザス大学教育学部でマスター取得。英語教員を経て著述家。近著に『増補新版 コロナ禍で障害のある子をもつ親たちが体験していること』(編著/生活書院)、『私たちはふつうに老いることができない 高齢化する障害者家族』(大月書店)ほか多数。