刑務所での食生活とはどんなものか。刑務所栄養士の黒栁桂子さんは「全国の刑務所どこでも、人気ナンバーワンなのが『ぜんざい』。量はどんぶりサイズで、マーガリンを一緒に出してほしいと要望を受けることが多い」という――。
※本稿は、黒栁桂子『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
刑務所人気ナンバーワンは「ぜんざい」
全国の刑務所どこでも、人気ナンバーワンなのが「ぜんざい」である。
とくに珍しくもないメニューがなぜ人気なのか。それは砂糖をたっぷり使ったメニューだからだ。
刑務所生活が長くなると、無性に甘いものが食べたくなるらしい。砂糖には、中毒性や常習性があるといわれる。日本人の多くが砂糖中毒だという文献もあるくらいだ。食べ物に制限のある生活をしていると誰でもそうなるらしい。
服役前はそれほど甘いものが好きではなかった受刑者も、刑務所生活に慣れてくるとすっかり甘党になる。私はそんな彼らを「スイーツ男子」と呼んでいる。酒やタバコなどの嗜好(しこう)品が一切ない生活の中では、甘味が唯一の癒しなのだろう。
明治から昭和時代の小説家、武者小路実篤の名言に「甘味は人の心を和らげる」とあるのも納得だ。
刑務所のぜんざいはどんぶりサイズ
さて、驚くのはぜんざいだけではなくそれを含めた1食分の組み合わせと量である。
これが管理栄養士の作成したメニューなの? 非常識だ! そう言われる自信がある。
私も刑務所に勤務し始めた頃は驚いたというか、たまげたという表現のほうが合っている。当然ながら栄養バランスなんて無視した高炭水化物、高脂肪食なのだ。『変な給食』の著者である幕内秀夫氏に知られたら、即取り上げられるに違いない。それほど栄養士や管理栄養士にとって非常識なメニューだ。
まず、ぜんざいの量が問題だ。普通に甘味処でいただくぜんざいといえば、味噌汁用ぐらいの小ぶりの汁椀に盛られる。ところが刑務所では、どんぶりサイズなのだ。