寅子がもっと上の立場や年齢になるときにやると、退官する穂高先生が言っていた「出がらし」に近くなってしまうので、意味がないと思い、寅子が地方に赴任するときに合わせて描くことにしました。このあたりは、自分がやりたいことと世代の問題、社会構造の問題などのパズルのはめこみのような作業になっています。
妊娠で弁護士を辞めた寅子が、妊娠した後輩のために動く展開
そして、後輩の判事補・秋山が妊娠し、仕事を辞めなければいけないかと思い悩みました。かつて最初の結婚と出産で同じくやしさを味わった寅子が中心になって、産休の制度を作るために動く展開もありました。これも寅子が穂高先生の出がらしポジションでやるとあまり意味がなく、中堅だからやる意味があると思っています。新潟編前からこの第22週までは中堅ゾーンで、この段階での寅子ができることを意識して描いています。
寅子の中堅ゾーンからは、扱うテーマもわかりにくい差別になっていきました。例えば女学生時代から法曹の道を歩み始めたばかりの頃のように、女性が大学に入れないとか、弁護士になれないといった制度上の差別や権利の侵害は今、ほぼないじゃないですか。それらはわかりやすい差別なので、それと闘う寅子をみんなが全力で応援してくれました。でも、だんだん今も解決していない差別や、同じ女性でもわかってもらえるとは限らないような差別になると、賛否が出てくる。寅子の行動はずっと変わっていないのに、周囲や社会がそれを許さなくなるという展開を描きたいと思っていました。
妊娠した女性を「母」と呼び、主体性を無視する言動への違和感
でも、わかりにくい差別を描くことや、それを現場に理解してもらい、共有してもらうのは簡単ではありませんでした。
中でも一番難しかったのは、第14週で女子部時代からの恩師・穂高先生が退官することになり、祝賀会で花束を渡す予定だった寅子が土壇場でそれを拒否して謝らなかったところ(※ページ1の名セリフの場面)。私は穂高という人物をすごく丁寧に描いてきていたつもりですが、放送されたときは穂高先生擁護の声が思った以上に多かったんです。基本的にネットの感想は見ないのですが、私のSNSへのご意見で「穂高先生の気持ちを察すると……」「かわいそう」みたいなコメントがきたんですね。