母子の生活の安定を考えると、それが最も良い選択といえた。
入管がすでに帰国便のチケットを押さえていた
しかし、調停を進めているにもかかわらず、児童相談所は今回の事態を入管に報告して、ハーさんを赤ちゃんとともに帰国させようとしていることが判明する。すでに帰国便のチケットも押さえているという情報が、弁護士から届いたのだ。
たとえば、成績不良で除籍となり、在留期限が切れそうな留学生を母国へ帰すのなら納得もいく。
しかし、日本で生まれた子どもに関する調停が進行中であることを把握しながら、その当事者をさっさと帰国させようとする行政の態度は許しがたかった。これまで妊娠した多くの技能実習生などが遭遇したであろう、面倒な案件は“なかったこと”にしてしまうこの国の常套手段を、支援をしている最中に目の当たりにして、こういうことかと合点がいった。
結局、ハーさんと赤ちゃんが帰国を免れたのは、入管が帰国の手配を取り消したからではなく、コロナウイルスが急速に感染拡大して国際線が飛ばなくなってしまったおかげだった。
犯罪者でもないのに強制帰国させられるべきなのか
その間、調停でのDNA鑑定を経て、B君の子どもであることが明らかになり、強制認知は成立。弁護士の支援により、母子はようやく一緒に暮らせるようになり、母子生活支援施設(通称・母子寮)に入所することもできた。ハーさんは今、アルバイトをしながら子育てに励んでいて、B君ともときどき連絡を取り合っている。B君は父親として子どものことをかわいがり、子育てにも協力してくれているらしい。
ハーさんは日本語学校の教師や徳林寺の住職、名古屋市のNPO、日越ともいき支援会など、運良く多くの支援者に出会うことができ、修羅場と呼べるようないくつもの局面を切り抜けることができた。支援の事例としては、成功といっていいだろう。
一方で、ハーさんのように抵抗する機会すら与えられず、帰国を余儀なくされた人たちの悔しさに、思いを馳せずにはいられない。