社会的価値の創造を経営の中核に掲げるSMBCグループ。社会課題の解決という切り口から、企業としてさらなる飛躍を目指す。

新しい物差しを先取りしたインパクトの測定・開示

髙梨雅之氏
三井住友フィナンシャルグループ
執行役員 グループCSuO
(Chief Sustainability Officer)
髙梨雅之氏
三井住友フィナンシャルグループ
執行役員 グループCSuO
(Chief Sustainability Officer)

 環境問題や貧困・格差などさまざまな社会課題が顕在化するなかで、三井住友フィナンシャルグループ (以下SMBCグループ)は中期経営計画で「社会的価値の創造」を中核に据えて取り組みを進めている。2024年には邦銀で初めて、各事業が社会に与えた影響を可視化する「インパクトレポート」を発表した。

「私たちはビジネス等を通じて社会課題の解決に貢献すべく、さまざまなアクションを起こしています。その成果を客観的なレポートにおいてお示しすることで、投資家や顧客の皆様に社会的価値創造への共感の輪を広げたいと考えました。従業員の意識改革もねらいの一つ。レポートを通じて社会の変化を実感し、個人において何ができるのかを考えるきっかけになればと思っています」。SMBCグループ 執行役員 グループ チーフ・サステナビリティ・オフィサーの髙梨雅之氏はこう語る。ただし、インパクトの可視化は容易な作業ではなかった。「多岐にわたるプロジェクトが社会に与えた影響をどう測るのか。可視化とはいわば、企業を評価する新しい物差しを先取りし、インパクトの測定・開示を行うことであり、前例のない挑戦でした」と髙梨氏。

SMBCグループは、「5つの重点課題」と、課題解決によって目指す「10のゴール」を設定した。課題選定にあたっては、従業員アンケートを実施し、国内外約2万人が回答。また、経営会議、取締役会などで議論を重ねた。
SMBCグループは、「5つの重点課題」と、課題解決によって目指す「10のゴール」を設定した。課題選定にあたっては、従業員アンケートを実施し、国内外約2万人が回答。また、経営会議、取締役会などで議論を重ねた。

 可視化が進んだ領域の一つが、環境分野だ。SMBCグループではかねてより企業の脱炭素化への移行(トランジション)支援に力を入れており、23年度は再生可能エネルギー関連プロジェクトに対するファイナンスによって、約3000万tの温室効果ガス(GHG)排出量削減に貢献できたと算定している。

 また、貧困・格差についても、例えばインドネシアにおける貧困解消の取り組みについて可視化を進めている。SMBCグループ傘下の金融機関BTPNシャリアが農村部でマイクロファイナンスなどを提供。ここでは 子どもの進学率などの指標をもとに、生活状況の改善度合いを確認した。

 日本国内では、親の経済状況により、子どもの教育や挑戦の機会が左右されてしまうことへの問題意識から、非営利団体と連携し、塾や習い事に使用できる「SMBC グループ・スタディクーポン」事業による学習支援を継続するほか、2024年9月に子どもの教育格差解消事業「CHANCE!」を立ち上げ、鎌倉市とともに協働を開始。当分野においてもインパクトの可視化に向け検討を進めていく。

NPOや自治体と協力し銀行の空き店舗を子どもの居場所として活用。体験イベントも開催
NPOや自治体と協力し銀行の空き店舗を子どもの居場所として活用。体験イベントも開催

インパクト評価の知見をビジネスにも広げていく

「ビジネスでもインパクトという指標が重要性を増しており、資金調達や経営支援でインパクト評価を活用しています。なかでも社会課題解決を目指すスタートアップへの支援は、日本の再成長という観点でも重要です」と髙梨氏。すでに三井住友銀行とSMBCベンチャーキャピタルが共同でスタートアップへのインパクト投資を開始しているほか、起業家向けワークショップの開催など非金融領域からも支援する。

起業家向けにインパクト投資やインパクト評価などに関するワークショップも実施
起業家向けにインパクト投資やインパクト評価などに関するワークショップも実施

「私たちが先頭に立って社会課題の解決に取り組んでいくことが、社会の幸せな成長に貢献し、グループ全体の成長にもつながると確信しています。今回のインパクトレポート発表を契機に、社会的価値の創造をさらに加速していきます」

photo(portrait):Tomosuke Imai
text:Emi Morishige