実際に生じたトラブルの例
私もこれまでに、主に地下アイドルの方の法的紛争を何件か取り扱った経験がありますが、その中で一番多かったものは、やはり報酬に関わるものです。地下アイドルと事務所との間の契約は、形式的には業務委託契約になっており、労働者のように賃金が支払われていないケースが多いです。
私が最初に扱った案件は、そこそこ有名な地下アイドルグループのメンバーが、「脱退するまで全く報酬をもらったことがないので、支払ってもらいたい」というものでした。そのグループはかなりの回数ライブを行っており、CDも何枚か出しているグループでしたから、売上はそれなりにあったものと思います。
アイドルの賃金、退職、移籍の問題は、三件ほどやったことあるけど、事務所の方が本当にひどくて、こっちが若くて知識ないのをいいことに、とにかく損害賠償請求するとの圧力かけてくる。根本的な法的支援が必要と感じた。 https://t.co/ww4oCYmCfT
— TSUYOSHI FUKAI (@TSUYOSHIFUKAI) 2018年5月20日
話題になり8000以上RTされた深井弁護士のツイート
しかしながら、そのメンバーには、「売れていないから」という理由だけで、交通費以外のお金が全く支払われていませんでした。契約書を見たところ、「報酬は、売上に、別紙に定める報酬基準の割合を乗じて定める」という条項がありましたが、その別紙というものはこちらに提示されませんでした。売上も伝えられることなく、自分がいくら稼いだのか、本来もらうべき報酬額がいくらなのか、全くわからないまま、3年近く活動していたのです。この件については私が代理人となり、事務所と交渉し、売上のデータや報酬基準を開示させて報酬を支払わせました。
アイドルが契約解除を申し入れると
また、私が担当した別の件では、萌景さんのケースのように損害賠償が問題になりました。そのアイドルは、グループに加入後まもなく人気も出て、物販の売れ行きもかなり良い状況でした。しかし、一つ目の例と同じように、報酬基準が示されていなかったため報酬はほぼ支払われず、せいぜい月に1~2万円でした。ライブの日程も過密で、体調に支障をきたすようになってしまい、休みがちになりました。
そのような状況なので、「もうグループを継続することはできない」と考え、そのアイドルが契約解除を申し入れたところ、事務所から、それまでのライブの欠席による損害や、近々予定していたそのアイドルの誕生日イベントがキャンセルになることによる損害などの賠償を請求されたのです。この件についても私が事務所と交渉し、報酬基準が示されず、十分な報酬を手渡していなかったという契約違反が事務所側にあったことを強調し、損害賠償金を払うことなく解決しました。