昨年7月まで週刊文春で連載していた「バブル兄弟」。筆者の西﨑伸彦氏は以降も“五輪を喰った兄”高橋治之氏の法廷をすべて傍聴し、本人への取材を続けてきた。“長銀を潰した弟”高橋治則氏は亡くなるまで無罪を訴えていたが、兄と検察のバトルも ——。(全2回の2回目/前編から続く

森の誤解を解くための食事会

 9月24日に行なわれた第12回目の公判でも、検察側証人の証人尋問が午前10時から続いた。午後には、AOKI創業者の次男で、現在はAOKIホールディングス会長の青木彰宏が証人として登場。そこでは、注目すべき食事会についての証言があった。

 17年7月3日。場所は治之が当時経営していた六本木の高級ステーキ店「ステーキ そらしお」である。会食は、組織委の会長である森の「誤解を解く」という目的のもとに治之が設定したもので、出席者は9人。証言では森と治之に加え、AOKI側からは4名が出席し、名前は伏せられていたが、自民党の派閥の領袖クラスで、のちに参議院議長も務めた女性議員も参加したとされた。それは山東昭子のことで、その場には有名デザイナーの芦田淳の次女と結婚し、「ジュン アシダ」の社長である山東の甥もいたという。

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 過去に五輪の公式服装を担当したこともあるアシダ側の希望もあり、AOKIが受注を目指していた日本選手団の公式服装のデザインをアシダ側が担う根回しの意味もあったとみられる。発注元は組織委ではなく、JOCであり、本来ならJOCが競争入札でデザイナーも選ぶ。だが、AOKIが受注すれば自然にデザインをアシダ側が担当できるよう治之が森を巻き込んで調整を図ったのだ。

 しかし、森は当初、AOKIに対していい印象を持っていなかった。過去にラグビー大会の協賛の頼み事を聞いてあげたにもかかわらず、御礼すらなかったというのが、その理由だったが、明らかに他社と勘違いしていた。そこで治之の発案で一席設けて森のご機嫌をとり、改めて五輪への協賛と公式服装の受注を依頼する場面を作ったのだ。

森喜朗

「(非礼を働いたのは)AOKIではございません」

 その言葉であっさり誤解は解け、森は「次のラグビーワールドカップ(2019年)までには(AOKIの2つの契約が)決まっているだろう」と告げた。その場で、治之からはAOKI側に、横浜市が誘致を目指していたIR(統合型リゾート施設)計画への参入や、AOKIグループのブライダル事業に華やかさを添える「食べるバラ」の導入などの提案もなされ、出席者は試食までしたという。

 さらに、AOKI側が選手団の公式服装を受注することが決まった後の19年9月4日、AOKIが経営するカラオケ店で“お礼の会”が開かれている。