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名探偵は、可憐で口の悪い姫様人形!?

『まことの華姫』 (畠中恵 著)

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はたけなかめぐみ/1959年生まれ。2001年『しゃばけ』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。同シリーズで2016年、吉川英治文庫賞を受賞。『ゆめつげ』『まんまこと』『明治・金色キタン』『若様とロマン』など、幅広い時代を舞台に活躍する。

「何年も前に文楽の舞台裏を拝見する機会があって。思えばその時から、頭の片隅にアイデアが浮かんでいたのかもしれません」

 畠中恵さんの新刊『まことの華姫』で謎解きに一役買うのは江戸両国の見世物小屋で評判の姫様人形・お華だ。可憐な仕草を操り、一人二役で喋るのはやや頼りない芸人・月草だが、語られる言葉は果たして人形のものか芸人のものか――。

「今よりも夜は暗かったでしょうし、蝋燭は高いし、小屋の暗がりの中で胡粉で顔を白く塗った人形が動いていたら、現代の私達よりもっと“生きて”見えたと思うんです。この本の刊行記念で対談させていただいた人形遣いの桐竹勘十郎さんも、人形がひとりでに動いているように感じられる瞬間があるとおっしゃったのが印象的でした」

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 真実を見通す不思議な力があると噂の立った華姫の小屋には、謎を抱えた客が次々に訪れる。夜ごと賑わう見世物の情景が楽しい。

「とにかく火事を恐れた江戸では、夜は早くに灯を消して店じまいするものと思っていたら、夏場の両国では夜遅くまで盛り場が賑わっていたと知って驚きました。類焼を防ぐための火除地なのに、空き地があるなら仮設の見世物小屋を建ててしまえ、という発想が江戸のたくましさですよね」

 本作のもう一人のヒロインであるお夏も、生きているようにしか思えない華姫につい口答えするうち、姉の死の真相に辿り着く。

「第1話を書き出した時は、なかなか視点が定まらなくて、まるごと書き直したりしたんですが、お夏を中心にした途端にしっくり来て」

 第2話「十人いた」は生き別れの子探しの物語。

「江戸では孤児を引き取り育てるシステムが出来ていました。幕末に外国人が書いた資料にも、日本人は子供を大事にするとあるくらい。逆に言えば、それだけ子供の死亡率が高かったからこそなんですよね」

 町人文化の華やぎを伝える一方で、忘れず描き込まれる時代の陰影もまた物語に魅力を添える。へなちょこ男と見えた月草の悲しい過去が明らかになる最終話まで、様々な角度から江戸に生きる人々を眺められる5篇が揃った。

 本書は作家生活15周年の記念の作でもある。『しゃばけ』で一躍人気を博してから今までで、畠中さん自身が感じる変化は?

「うーん、長く続ければもっと楽になるかと想像していたんですけれど……。いまだに毎作、初めてのことばっかりです(笑)」

姉を殺したのは、地回りの親分である父ではないか――。疑いを消せないお夏は、真実を見通すと噂の姫様人形・お華を操る話芸が人気の、芸人・月草の見世物小屋を訪ねるが。表題作ほか、町人と武士の縁談を描く「夢買い」や、上方商人の尋ね人を巡る「西国からの客」など、人形語りで謎を解く5篇の連作短編集。

まことの華姫

畠中 恵(著)

KADOKAWA
2016年9月28日 発売

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名探偵は、可憐で口の悪い姫様人形!?

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