遺贈寄付で、誰でも未来のヒーローになれる
人生の最後にもう一度、社会に貢献したい──。そんな思いを実現する手段として、注目を集める遺贈寄付。遺贈寄付を巡る状況について、日本承継寄付協会代表理事の三浦美樹さんに聞いた。
着実に遺贈寄付の裾野は広がっている
遺贈寄付とは、遺言書などによって死後に自分の財産の一部または全部を、社会貢献団体や自治体などに贈る寄付のことだ。遺贈寄付の普及啓発に取り組む日本承継寄付協会代表理事の三浦美樹さんは「遺贈寄付の認知度は着実に上がっています。特に近年は、金融機関やファイナンシャルプランナーなど身近なお金を扱う専門家の間で遺贈寄付を勉強したり、終活をされる方に遺贈寄付を提案する流れが起きています。裾野が広がり、シニアのなかでも遺贈寄付という言葉は少しずつ浸透してきているなと感じます」と話す。

三浦美樹さん(みうら・みき)
一般社団法人 日本承継寄付協会 代表理事
一方で「遺贈寄付という言葉の認知度は高まっているものの、まだその実態が十分に伝わっているとは言えません」とも指摘する。
日本承継寄付協会が昨年実施した「『遺贈寄付』に関する実態調査」によると、70代のシニアにおける遺贈寄付の認知度は83.9%と大きく向上している。しかし「遺贈寄付はお金持ちがするもの、手続きが大変そう」といった誤ったイメージを持つ人が多く、認知度に比して実行する人はまだ少ないという。
「遺贈寄付は、資産の多い・少ないにかかわらず、誰にでも実現できる身近な社会貢献の手段です。亡くなった“後”の寄付ですから、老後のお金を心配せずに寄付ができます」
少額の遺贈寄付ではかえって迷惑にならないかと心配する人もいるが、「決してそんなことはありません」と三浦さん。
「現預金の遺贈寄付であれば、受け入れの手間は通常の寄付と変わりません。金額の多寡ではなく、お金を託して活動を後押ししたいというその気持ちが寄付先の団体の励みになります。10万円でも、1万円でも、尊さに変わりはありません」
ただし、土地や建物といった不動産や有価証券の遺贈寄付、財産すべてを寄付するといった包括遺贈は受け入れられる団体が限定されるため、事前に遺贈の意向を伝えて相談しておくほうがいいだろう。
「老老相続」の流れを変えて前向きな社会をつくる
世界でも類を見ないスピードで高齢化が進む日本では、高齢者から高齢者へと財産が移転する「老老相続」が深刻な問題になりつつある。
「80~90歳代の親世代から60~70代の子世代に財産が相続されると、なかなか次世代のためにお金が使われづらくなります。けれど、相続時に財産の1%でも遺贈寄付するようになれば、社会を前向きに変えられます」
遺贈寄付先となる団体は、寄付者が自分の価値観に基づいて自由に決められる。例えば、経済的な困難を抱えた若者の学びを支援したり、被災地支援の充実を図ったりと、さまざまな団体への遺贈寄付が可能だ。また、遺贈寄付そのものが世代間のお金の循環を促し、社会全体の活力を維持することにつながる可能性も秘めている。
「最近は世代間対立をあおる言説が目立ちますが、今のシニアの方々は日本の経済成長を担い支えてきた方々であり、未来を思う心を持っています。そんな思いを実現するチャンスとして、遺贈寄付を活用してほしいですね。遺贈寄付を通じて誰でも、次世代を助けるヒーローになれるんです」
プレゼントはもらうよりあげるほうが幸福感が高い
遺贈寄付を実現するには、遺言書でその意思を示す方法が一般的だ。ただし多くの人が「まだ若いから」「財産がないから」と遺言書作成を先延ばしにしており、遺贈寄付の実行を阻む要因となっている。「遺贈寄付の意向の有無にかかわらず、遺言書を作成しておくとご家族や周囲の人の負担がぐんと軽減されます。ぜひ、前向きに備えていただきたいですね」と三浦さん。
そのうえで日本承継寄付協会では、10万円以上の遺贈寄付を書き入れることを条件に、遺言書作成の費用を一部助成する「フリーウィルズキャンペーン」を毎年実施している。「きっかけがあれば遺贈寄付をしたいという人は多くいらっしゃいます。キャンペーンがその後押しになれば」と三浦さん。
遺贈寄付は単なるお金の受け渡しではなく、人生の締めくくりに生き方そのものを表現し、社会とのつながりを再確認できる機会でもあるのだ。
「プレゼントは、もらうよりあげるほうが幸福感が高いと言われています。遺贈寄付はまさにこの考え方を体現する行為。物質的な豊かさを追求する時代は終わり、精神的な豊かさを求める人が増えています。『人生の最後に、何か社会に貢献したい』『自分の思いを未来に伝えたい』。そうお考えの方はぜひご検討ください」

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