災害や事故が発生したとき、家族や大切な人の居場所を確実に知る方法があれば――そんな切実な思いを叶えるのが、累計163万ダウンロード超えの防災アプリ『ココダヨ』だ。株式会社ゼネテックが開発した同アプリは、位置情報をあらかじめ取得しておくことで災害時にもスムーズな安否確認を可能にする、という独自の機能で人気を集めている。
BtoB事業を主軸としてきたIT企業が、なぜBtoCの防災アプリを開発したのか。開発秘話と今後の展望を、同社で営業企画部長を務める伊与徹也さんと、エンジニアとして開発に携わった松本真英さんに聞いた。
東日本大震災には“間に合わなかった”
—— 『ココダヨ』の開発のきっかけを教えてください。
伊与徹也さん(以下、伊与) ゼネテック社長の上野(憲二さん)が、阪神・淡路大震災や新潟中越地震の被害を見聞きしたことがきっかけです。緊急事態に陥ったときに、大事な人の居場所や安否を素早く確実に把握できるツールを開発し、一人でも多くの方の命を守りたいという思いから、“位置情報を日頃から取得しておき、災害が発生したら自動で通知する”というアイデアが生まれました。
松本真英さん(以下、松本) 構想が持ち上がったのは、2007年頃だったと聞いています。当時は位置情報の仕組みを誰でも使えるわけではなかったので、通信キャリア会社と提携することでなんとか実現しようと動いていました。ただ、なかなかキャリアの腰が重くて……そうこうしているうちに、2011年の東日本大震災が起きてしまったんです。
——東日本大震災には間に合わなかったんですね。
伊与 2011年は、特許の申請にこぎつけて、ようやく特許を取ったかどうかという時期でした。その頃にはスマホが普及して一企業でも位置情報を使えるようになっていたこともあって、自社開発に切り替えることにしました。

—— 自社開発に切り替えたのが2011年頃で、アプリを初めてローンチしたのが2015年。この4年という月日に、苦労が窺えます。
松本 ゼネテックの主力事業って、製造業の機械とかの中で動いているプログラムの開発なんですよ。どうしてもそちらに人手が割かれてしまって……。僕もPHSの端末のプログラムを担当していたら、ある日急に異動を言い渡されましたから(笑)。
—— BtoBからBtoCへの転換は大変だったのではないですか?
松本 そもそも会社の中にBtoCのコンテクストがない、というのはありました。ずっとBtoBの事業をやっていたところに、BtoCで24時間365日運営するサービスというまったく毛色の違うことを始めたので、戸惑いはあったと思います。

実は、僕の前に何人かいた前任者は、みんな「地震が起こった時にちゃんと動くシステムなんて作れない」と言って逃げちゃったんですよ。僕は「動かなかったら動かなかったときだ」と開き直れたんですが、やはり緊急時の使用が想定されているサービスという点で、それまでの業務とは別の緊張感がありましたね。
—— 『ココダヨ』は、先ほどのお話にもあった通り、“事前に位置情報を取得しておく”のが特徴的ですよね。
伊与 防災アプリやサービスは他社のものもいくつかありますが、災害が発生してから位置情報を取得しようとするものがほとんどです。でも、災害時は電話やインターネットの回線が混雑して繋がらなくなってしまうことが多い。そこで、『ココダヨ』では、あらかじめ取得しておいた位置情報を、震度5弱以上の緊急地震速報があると自動的にグループメンバーへ送信する、という他にはない仕組みを取り入れました。
松本 位置情報の取得頻度は15分から60分まで15分刻みで設定できるようになっていて、デフォルトは30分です。さらに500m程度の大規模な移動をしたときにも自動的に更新されます。
無料アプリがあふれる中……月額90円の“課金型”にこだわる理由
—— 他にはどんな機能がありますか?
松本 グループのメンバーがどこにいるかを地図で見られる機能があります。見守り機能としての使われ方をすることも多いようですね。
一方で、いくら家族であっても常に位置情報を共有していると窮屈に感じる方も多いと思います。そういったプライバシーにも配慮し、緊急時以外の位置情報の共有についてはオン・オフを選べるほか、都道府県や市町村などざっくりとした位置のみ共有するといった選択肢も用意しています。

伊与 グループにはチャット機能もあるので、安否確認ができます。それから昨年9月に、テレビ番組の街頭インタビュー企画で“おすすめのアプリ”としてたまたま紹介されたんですが、保育園に行っているお子さんのお迎えを夫婦で決めるツールとして『ココダヨ』を使っているという方がいらっしゃって。「どちらが保育園に近いところにいるかを地図で確認している」と仰っていたのですが、家族のコミュニケーションツールとしての使い方は参考になりました。
あとは、天気予報や過去の地震速報の一覧、大雨危険度や気象警報がアプリ画面から確認できるほか、オプションで不審者情報なども提供しています。現在地から2kmぐらいの距離にある避難所情報も見ることができるので、日頃の備えに加えて、出張先や旅行先でも安心です。

—— 『ココダヨ』はグループメンバーの人数によって料金が変わり、たとえば4人家族であれば一人あたり月額90円からとなっています。リーズナブルな一方、広告型モデルを取ることで無料のアプリも数多くある中、課金型モデルを貫く理由はあるのでしょうか。
伊与 ひとつには、防災と広告は馴染まないというのがありますね。大切な人の安否を心配して確認するためにアプリを開いた方に、楽しいゲームの広告を見てもらうのはどうなのかっていう。それから、「ちゃんとしたものを作って、それにちゃんと対価をもらうのがサービス」という強い思いもあります。
松本 24時間365日、きちんと稼働するようサーバーを強化しているので、そこにお金がかかっています。災害時はアクセス量も多くなるので、しっかりと課金をいただかないと、質のいいサービスを継続して提供することは難しいと考えています。
伊与 実は『ココダヨ』の課金継続率は98%なんです。動画配信サービスがだいたい70%ぐらいと言われていることを考えると客観的に見ても高い割合ですし、『ココダヨ』は一度使えば良さが分かるサービスだと自負しています。初月は無料で自動課金されませんので、ぜひ気軽に試していただければと思います。

—— 今後のサービス展開について教えてください。
伊与 3月には津波情報とハザードマップ機能を追加する予定です。他には、高齢者などの見守り、防犯の強化も考えています。また、世界13ヵ国で特許を取得しているので、今後は海外展開も視野に様々なニーズに応えていければと思っています。
松本 何かあった時に、大切な人がどこにいて無事かどうかは万人が知りたいことだと思います。自然災害だけでなく、災害前の備えや避難に関する情報、病気や事件など、“何かあったとき”の“何か”の範囲を広げる形でサービスを展開していきたいと考えています。

