細雪が舞う中、半島の山間部に差し掛かると、起伏の激しい迂回路が幾度も現れる。崩落した路面を横目に、元横綱貴乃花こと花田光司氏(52・以下、貴乃花)は、自らレンタカーのハンドルを握り、「のと里山海道」を北上した。
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2月19日。貴乃花は妻のA子さんと一緒に、石川県の能登半島北部にある能登町鵜川を目指した。
2020年の暮れ、貴乃花はテレビ番組の企画で能登町の寒ブリ漁を体験。以来、地元の漁師集団「日の出大敷」の5代目網元である中田洋助さん(38)との交流が続いていた。
「県産最高級ブランドの寒ブリ『煌』が獲れる定置網漁の土地。漁師は相撲と同じく師匠と弟子のいる世界で、網を引く作業はまわしを引く動作に通じるものがありました。昨年元日、能登半島地震が起きてすぐ中田親方に連絡すると、幸いご自宅やご家族は無事とのことでした。ただ、各地で大きな被害が出ていると聞き、能登の人たちと美しい景色が傷ついたことに心が痛みました。中田親方たちとは悲願の再会でした」
能登は他人事ではない
金沢市を出発して2時間半。鵜川漁港で中田さんと合流した貴乃花夫妻は、能登町の宇出津港、さらに北上し、被害が甚大だった珠洲市内を見て回った。
「積雪が覆い隠していましたが、不自然な更地は、もともと建物があった場所だと教わりました。手付かずのまま残っている傾いた家屋も。実際に見て痛感したのは、発災から1年以上が経つのに、復旧、復興が遅いこと。より多くの人に自分の目で現状を見てもらいたい。関東をはじめ、日本ではいつ大地震が起きてもおかしくない。決して他人事ではありません」
能登から戻り、あらためて「週刊文春」の取材に応じた貴乃花。話題は被災地慰問のみならず、愛妻や元弟子たちへの思い、世の関心事まで多岐にわたった――。
父と輪島さんの思い出
能登を訪れた日は偶然にも、父親である元大関・初代貴ノ花(故人)の誕生日。
「能登といえば、親父と仲のよかった元横綱の故・輪島さんの故郷。親父と輪島さんは、現役引退後、2人で資生堂のCM共演もしていました。親父の遺品を整理している時、輪島さんからもらった奥能登伝統の輪島塗がいくつも出てきたことを思い出しました」