角界にとって大きな損失だろう。元横綱白鵬の宮城野親方は表面上は退職を否定しながら、腹は決まっていた。当初から慰留に努めていた関係者によると、決断の背景にあるのは日本相撲協会への強い不信感。両者の溝は深まる一方だった。
弟子の暴力問題で宮城野部屋が「当面閉鎖」となってから1年余り。この間、閉鎖解除へ相撲協会がなかなか動かなかったのは、粗暴な取り口などで物議を醸した現役時代終盤の振る舞いが影響した印象も。本人は不当な扱いを受けていると感じ、もどかしさを募らせながら、「協会は俺を辞めさせたいんでしょ」と漏らしたこともある。
部屋再開のめどは立たず、新弟子も取れない。部屋付き親方の立場では協会から力士養成費などが支給されず、収入は激減。後援者離れもあり、元白鵬の基盤は弱体化した。
部屋閉鎖に伴う転籍先の師匠、伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は7月に65歳の定年を迎えるため、モンゴルの後輩に当たり、折り合いが悪いとされていた照ノ富士親方(元横綱)が伊勢ケ浜部屋を継承する。同一門の大先輩である元旭富士に相撲部屋の師匠としての指導を受けるという処分の大義名分も成り立たなくなる。
八角理事長(元横綱北勝海)は、元旭富士の定年後の元白鵬らの扱いについて同一門の理事、浅香山親方(元大関魁皇)が預かるように指示。11月の九州場所後に処分が解除される道筋が示されたものの、本人の決意が揺らぐことはなかった。
2011年の八百長問題発覚で存続の危機に直面した国技を一人横綱として支えた。主宰する「白鵬杯」では、後進の育成や競技普及にも取り組んだ。記録にも記憶にも残る横綱白鵬の技と思考力を継承できない状況は、ファンにとってもやり切れない。
