「寝ても覚めても、自分の中にぶれない“重心”を持っておくこと。心の定位置を把握し、精神の安定を保つ。“重き心”の置き場所が定まっていれば、どんな局面にも動じなくなる。さらなる飛躍の時を迎えられるはずです」

 そう力強く言葉を紡ぐのは、貴乃花光司氏(52・以下、貴乃花)だ。平成の大横綱が、令和の新横綱に熱きエールを送る。

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日本出身横綱は8年ぶり

 大相撲五月場所。大関として二場所連続優勝を果たした大の里(24)が、めでたく横綱昇進を決めた。

優勝パレード。左は旗手の高安

「千秋楽は横綱の豊昇龍に敗れ、全勝優勝こそ逃したものの、横綱審議委員会では満場一致で横綱に推薦された。日本出身横綱は、師匠の稀勢の里(現二所ノ関親方)以来、8年ぶりとなります」(相撲担当記者)

師匠の元稀勢の里

 初土俵から所要十三場所と、角界史上最速で上りつめた最高位の番付。だが、大の里も憧れた先輩横綱の貴乃花は、こう指摘する。

「横綱は頂点ではありません。辿り着いた人生の新たな居場所、出発点に過ぎない。勝負するのは土俵、落ち着くところも土俵。すなわち生きる場所が土俵。それを忘れてはいけない。大の里の道はこれからです」

平成の大横綱から檄

 初代若乃花、隆の里、稀勢の里、大の里と師弟四代に連なる綱の系譜。初代若乃花を伯父、その弟子で初代貴ノ花を父に持つのが貴乃花だ。助言を続ける。

「足の裏から、股関節、丹田、頭の位置、天辺まで身体の軸が繋がっていることを念頭に、土俵の中で鍛錬を続けてほしい。ウエイトトレーニングを極めても横綱の身体にはならない。今後も土俵で稽古を重ねながら、心と体と気を練り上げていくことが不可欠です」