〈こんな会社辞めてやる!〉

 鮮烈な帯文がひときわ目を引くお仕事小説『高宮麻綾の引継書』が働く人達を中心に話題を呼んでいる。書店員の間で口コミが広まり、3月6日の刊行を前に、デビュー作としては異例の発売前重版が決定。都内有数の大型書店・丸善丸の内本店では文芸書の週間売上ランキング1位(4月3日~9日)を獲得した。

 無名の新人作家のデビュー作がなぜここまで読まれるのか。著者の城戸川りょうさんに加え、ジュンク堂書店池袋本店の市川淳一さん、紀伊國屋書店新宿本店の反中啓子さん、ブックコンパスニュウマン新宿店の成生隆倫さんをお招きして、その魅力を存分に語ってもらった。

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高宮麻綾の引継書

自己投影できる主人公

――『高宮麻綾の引継書』のどんなところが読者に刺さるのでしょうか。

反中:何より主人公の麻綾の人間臭さがいいですよね。会社では優秀な存在として一目置かれている半面、実は仕事にしがみついているところとか。読み進めていくとだんだん麻綾の弱さが見えてきて、「あ、私に似てるかもしれない」って思いました。「みんなこういう気持ちで仕事してんのかもなぁ」とか。

城戸川りょう氏

市川:やっぱり読んでいる人が自己投影できるキャラクターですよね。「ああなんかこういうところ似ているな」って。

反中:麻綾は感情的になり過ぎて、売らなくて良いところで喧嘩を売ったりする時もあれば、意外と冷静に処理して、上手くやることもあるじゃないですか。

 ちょうどこの作品を読んでいた時に仕事で凄くムカつくことがあったんです。そこで感情的になりかけたんですけど、「あ、麻綾もこんな気持ちだったのかな」って思って。

 ムカつきながらも反省して、気持ちを整理するきっかけになりました。なんかこの本が味方になってくれたような気がするんですよね。

紀伊國屋書店新宿本店より

成生:まさに麻綾の強さって唯一無二なんですよ。自分のたまらない瞬間を追い求めて突き進む姿が、魅力的だと思います。でもちゃんと、周りで幸せをつかんだ人間を妬んだりもしていて。それをさらにエネルギーに変えて仕事にぶつける。そういうところも好きです。

ブックコンパスニュウマン新宿 成生隆倫氏

市川:反発心をエネルギーにするところが良いですよね。

城戸川:彼女の人間臭さについては凄く意識して書きました。私自身が仕事でムカついた経験などいろいろな気持ちを込めています。担当編集も「麻綾は私だと思いました」って言ってくれて。物語を読んで「自分もやってやるぞ」と思ってもらえるのは凄く嬉しいですね。