「令和でも仕事に熱くなっていいんだ!」「月曜日が憂鬱なサラリーマンに読んでほしい!」と、多くの共感の声を呼んでいるお仕事小説『高宮麻綾の引継書』。出版不況が叫ばれる中、本作を読んだ書店員は自身の仕事をどう考えるか。前編に続き、著者の城戸川りょうさんに加え、ジュンク堂書店池袋本店の市川淳一さん、紀伊國屋書店新宿本店の反中啓子さん、ブックコンパスニュウマン新宿の成生隆倫さんに赤裸々に語ってもらった。
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書店でつくるストーリー
――書店員のみなさんは働いていて「たまらない」と思う瞬間はありますか?
市川:お客さんの動線を考えてストーリー仕立てにしたことがあって。その施策がハマった時の快感はひとしおでした。
城戸川:ストーリー仕立てですか。
市川:はらぺこグリズリーさんの『世界一美味しい煮卵の作り方』っていう新書があるんですよ。僕、大の煮卵好きで、どうしてもこの本を売りたかったんですね。
そこで通常よりもたくさん仕入れて、あえて新書の売場じゃなくてレジの端っこのところにポンって置いたんですよ。
僕が働いていたお店はレジの前に行列ができることが多いので、並んでいる最中に、例えば家族連れがたまたまこの作品を見て「これ凄く美味しそうだから作ってみようよ」っていう流れになったらいいなと。で、まさにそのシチュエーションでお客さんが買って行ったのを見つけた時はたまらなかったですね。
反中:すごい。良い話。
絶版から救った
成生:印象に残っているのは、絶版寸前だった桜木紫乃さんの『砂上』を展開したことですね。凄く好きな作品だったんですけど、出版社に在庫がほとんどなくて。それでもどうしても推したくて「倉庫の端から端まで探せばあるんじゃないですか」と、今思えばかなり失礼なことを言ってしまったかもしれませんが、どうにか30冊くらい集めました。それで自作の拡材を作って展開したらすぐに売り切れたので、これは行けると思って出版社に猛プッシュしたら重版がかかったんですよ。
後日、桜木さんから電話があり「絶版から救っていただいてありがとうございました」って言われた時はたまらなかったですね。
市川:売れている本もそうですけど、売れなくなってきた本をヒットさせるのは快感ですよね。