人生最後、お金をどう使う?
未来をつくる遺贈寄付という選択肢

自分が死んだ後に残ったお金があるならどんな使い方をしたいか、考えたことはあるだろうか。今、死後に財産の一部を社会課題の解決に取り組む団体などに寄付する「遺贈寄付」が広がりを見せている。思いを確実に未来へ届けるためにどんな準備が必要なのか。遺贈寄附推進機構代表の齋藤弘道氏に聞いた。

「おひとりさま」の増加で変わる相続の常識

──なぜ今、遺贈寄付が注目されているのでしょうか。

遺贈寄附推進機構 代表取締役
齋藤 弘道氏(さいとう・ひろみち)
みずほ信託銀行、野村信託銀行などを経て、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。全国レガシーギフト協会理事。新著に『おひとりさまのためのエンディングノート』(縁ディングノートプランニング協会監修、文藝春秋刊)。

齋藤:背景には日本の大きな社会構造の変化があります。かつては、相続では子どもに自分の財産を継がせることが常識となっていました。しかし近年、子どものいない世帯は増加傾向にあり、2020年時点で50歳女性(1970年生)の生涯無子率は27%に到達しています。今後、子どもに財産を相続させることがない「おひとりさま」が増えていくなかで、資産をどのように誰に引き継ぐのかは大きな課題。そこで自らの意思で資産の承継先を決められる「遺贈寄付」は自己実現の重要な選択肢となっています。

──遺贈寄付は死後の寄付になります。どのように準備しておくのでしょうか。

齋藤:遺言や信託、生命保険の活用など、遺贈寄付の実現方法はいくつかあります。なかでも遺言を使って遺贈寄付の意思を示すケースが一般的です。遺言は富裕層だけの特別なものとして捉えられがちでしたが、最近では制度が見直されています。特に自筆証書遺言は、法務局保管制度ができたことでぐっと使いやすくなりました。

事前相談をしておくことで不本意な事態を回避できる

──遺言を作成するうえで、気をつけるべきことはありますか。

齋藤:不動産や有価証券など現金以外の遺贈、債務を含めた財産すべてを寄付する包括遺贈は、団体側で受け取れるかどうかの事前調査が必要になってきます。遺贈を検討している場合は、寄付を予定している財産や家族との関係などについて、寄付候補の団体に事前にご相談いただくことをお勧めします。そうすれば、どんな方法なら思いを受け止められるのかを団体側が一緒に考えてくれるはずです。

──遺言を書き始めるまでに時間がかかってしまう方も多くいます。前向きに遺言を書き始めるためのアドバイスをお願いします。

齋藤:遺言を書く前に自分の考えを整理し、財産の状況を整理するために、エンディングノートを作成しておくのもお勧めです。特に近年は「デジタル資産」が増えていますので、スマートフォンのパスワードをはじめ、各種サービスのID・パスワードをエンディングノートに記録しておくことは非常に重要。エンディングノートは終活に関する自分の考えにアクセスするための結節点(ハブ)として機能します。

 ただし、エンディングノートを作ることが重荷になってしまったら本末転倒です。遺言にせよ、エンディングノートにせよ、あまり気負わず、「ためしにやってみる」くらいの気持ちで書いてみてください。実際に書き始めてみると、自分の考えや準備すべきことがクリアになってきます。

シニア世代の行動が社会を変えていく

──遺贈寄付先はどのように選べばよいのでしょうか。

齋藤:遺贈寄付は、これまでの人生を振り返り、自分が最も共感できる社会課題の解決を応援するお金の使い方です。寄付先をどう選ぶかは人それぞれ。困難な状況にあるお子さんを支援したい、病と闘う人のための治療法開発を後押ししたい、あるいは難民や紛争の被害者を助けたいという方もいらっしゃるでしょう。寄付を通じて自分が誰かの助けになると感じられることは、これからの人生に大きな誇りと充実感をもたらしてくれるはずです。

──遺贈寄付は、日本の社会をどう変えていくと考えますか。

齋藤:日本の社会は、高齢世代に多くの金融資産が集中しています。今後、遺産を残す側も受け取る側もともに高齢である「老老相続」が増えていくと予測されており、資産の偏在はさらに加速していくでしょう。しかし見方を変えれば、シニア世代の意思次第で、より良い未来を引き寄せられるということでもあります。例えば相続の際に遺産の1%を遺贈寄付することで、未来をより良い方向へ動かす大きな助けになります。遺贈寄付を通じて、「眠れる資産」が社会を変えていく。そんな流れが生まれればと願っています。

【終活Tips!】コピーで書き出す手間を省こう!

財産に関する情報は記載事項が多くてエンディングノートに書き写すだけで一苦労。そんなときは書かずにファイルする方法を使ってみましょう。キャッシュカードやクレジットカード、年金証書などをコピー機に並べて、裏表を複写。そのコピーをA4サイズのクリアフォルダに入れておけば、書き出す手間が省けます。