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一人でも理解してくれる人がいたら、どうにかなる

  今回の物語を、かわいそうな女の子に余裕のある大人が手を差し伸べるのではなくて、同じような痛みを抱えた人同士が、手を取り合って前に進んでいく話にしたかった。過去を初期化はできないけれども、抱えたままでも理解してくれる人に出会えればいい。一人では声を上げるのは難しいけど、だれか一人でも理解してくれる人がいたら、どうにかなると思います。

 今回、章子を深夜バスに乗せたかったんです。真っ暗な中でも、ちょっと光る先が見えていたら、そこに向かっていける。冒頭のシーンで章子が深夜バスに乗っていますが、全編読み終わるときに、到着地が近づいて段々と朝が訪れるあの光の差す感じと、イメージを重ねてもらえたら嬉しいです。

――10年という節目の作品としての意識はありましたか。

  読者の方から「中学生の時に『告白』を読んで、いまは中学校で教師として働いています」なんて言ってもらえると、10年という時間が経ったんだなと思いますよね。『未来』を書いているときは「10周年」は意識していませんでした。ただ、書き終わってみれば、これまでの作品で書き足らなかったところ、書いた後に気付いたことも『未来』に入れることができて、これまで20作品を書いてきたからこそ書けた21作目だと思います。

未来

湊 かなえ(著)

双葉社
2018年5月19日 発売

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――この節目に振り返って、作家・湊かなえの「はじめの一冊」として、思い当たる本はありますか?

  アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』でしょうか。高校のころ、通っていた数学塾の1階に書店があって、塾が始まるまでそこで過ごしていたんですが、好きな男の子の前でカッコつけたい年頃ですよね(笑)。それで外国の本が並ぶハヤカワ文庫の棚の前に立っていたとき、目に止まったのが、この本でした。そうしたら一晩で一気読み。登場人物たちが孤島に集められたり、それぞれ過去に罰せられていない罪を犯していたりと、シチュエーションが“ドはまり”でした。そこから友人と一緒にクリスティーの作品を読み続け、外国のミステリーに入っていきました。

 新訳の文庫解説を赤川次郎さんが書かれているのですが、そこに『そして誰もいなくなった』の分量は、エンタメとして「一晩で一気に読み切れる長さ」だと書かれている。計算したら、「待て待て! 『告白』も同じ枚数だ」と気付いて。この本を読んで自然と、一晩で読み切る達成感と、間の緩急の付け方、そしてリズムを身に付けていた。そう考えると、読者としてももちろんですが、ミステリー作家として、教本的な一冊になっていますね。

みなとかなえ 1973年広島県生まれ。2008年、小説推理新人賞受賞作を含む『告白』でデビュー。12年「望郷、海の星」(『望郷』収録)で日本推理作家協会賞短編部門、16年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。