2023年5月、長野県中野市で住民の女性2人と警察官2人が殺害された事件。殺人の罪などに問われている青木政憲被告(34)の裁判員裁判の判決公判が10月14日午後に開かれ、長野地裁は被告に「死刑」を言い渡した。
地元でよく知られた名家の長男だった青木被告。都会のキャンパスライフに馴染めず、精神に変調をきたして郷里に舞い戻ったのは11年前のことだった。事件の背景にあった“呪縛”とは――。当時の「週刊文春」の記事を、一部編集して公開する。(全2回の2回目/#1より続く)
(初出:「週刊文春」2023年6月8日号。年齢、肩書は当時のまま)
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「大学で『ぼっち』とばかにされている」
高校で成績が伸び悩んだ青木は、一浪の末、首都圏にある東海大の情報通信系の学部に入学した。人生が暗転したのは、この大学時代だ。
父のA氏と母のB子さんが事件後、地元紙「信濃毎日新聞」に明かしたところによれば、高校時代から友達のいなかった青木は、神奈川県内の寮に入るが、他の学生と馴染めず、東京都目黒区のアパートに引っ越して独り暮らしを始めたという。次第に青木と連絡が取れなくなり、心配した両親が上京すると、冒頭と同じ言葉を聞く。
「大学で『ぼっち』とばかにされている」
青木の精神は、明らかに変調を来たしていた。同紙の記事にはこうある。
〈住んでいたアパート1階の部屋に入る際、青木容疑者は「ここは盗聴されているから気を付けて」と言った。聞くと、盗聴を恐れて携帯電話の電源も切っており「部屋の隅に監視カメラがある」。だが、両親にはカメラがあるようには見えなかった〉(5月29日付紙面)
両親は病院へ連れて行こうとしたが、青木は「俺は正常だ」と拒んだという。
利益を上げた父の事業の手伝い
結局、青木は大学を中退し、2012年、郷里に舞い戻る。“名家の長男”の航路は、大きく蛇行し始めていた。
青木の帰郷前、父のA氏は、会社勤めを続けながらも、果物の通販事業に精を出していた。
「契約農家が有機肥料で育てた果物を、産地直送で販売する事業です。青木家がそれまでメインにしていたキノコ栽培の商売が振るわず、家のローンも苦しい時期で。この通販事業が利益を上げたため、自前の農園でも果物に力を入れ始めたんです」(当時の仕事仲間)
青木も、父の事業を手伝い始めたが――。
「心を病んで大学を中退したと聞いていたが、紹介された時は『本当に大丈夫かな』という感じで。声をかければ返事はするんですが、聞かれたことにしか答えず、鬱々として暗い子でした」(別の仕事仲間)
