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「糖質制限で老化する」は本当か

衝撃の研究結果を徹底検証する

2018/08/24

ヒトを対象にしたデータはない

 だが、糖質制限を推進してきた医師たちは、この「週刊新潮」の記事に反発。北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟医師は「話にならない」と一蹴する。

「記事はマウスの実験を根拠にしていますが、動物実験の結果はそのままヒトには当てはまりません。なぜなら、動物とヒトは代謝経路が異なるからです。たとえばネコはチョコレートに含まれるテオブロミンという物質を代謝できないため、チョコを食べると神経毒となり動けなくなります。だからといって私たち人類も、チョコを食べてはいけないと言えますか?

 同様に、ヒトにはインスリン遺伝子が一つしかありませんが、マウスは2つ持っています。ヒトに比べ糖の処理能力が高い一方で、高脂質食には弱い性質がある。もし今回の実験結果をヒトに当てはめるなら、そのマウスがヒトのモデルとして適切か、エサが本当にヒトの食事を再現できているかといったことから検証する必要があるのです。それに今のところヒトを対象にした研究で、糖質制限で老化が進むことを示すデータは一つもありません。それどころか、血糖値、肥満、脂質異常症、血圧が改善し、メタボ解消になる可能性を示す研究がたくさんあります。それらを無視して、都合のいいデータだけで糖質制限の危険性を煽るのは大いに問題ありです」

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 EBM(科学的根拠に基づく医療)を準則とする現代の医療では、被験者(患者など)を無作為に数グループに分け、薬や治療などの効果を比較する「ランダム化比較試験(RCT)」や、それに次いで、何万もの人を長期に追跡し、生活習慣などの違いによる病気や死亡のリスクを比較する大規模な「コホート研究(住民集団の追跡研究)」が、信頼性が高いとされる。一方、個別の患者の症例や動物実験などは参考にすべきではあるが、臨床上の根拠としての信頼性は低い。

 したがって、それらだけでヒトの「老化が進む」「寿命が縮む」というのは無理があるだろう。

 動脈硬化が進むという真島医師の主張にも、江部医師が反論する。

「真島先生の患者さんのケースを見ると、糖質制限と言いつつ、トンカツなど揚げ物をたくさん食べ、ビールも毎日飲んでいたとありますよね。そんなことをしていたら血糖値が上がって、動脈硬化が進んでしまうのは当然です。揚げ物の衣やビールにも糖質がたくさん含まれているからです。

 それに、糖質制限を始めても心血管病を起こす人はいます。なぜなら、糖質を控えたことで現在の血糖値が改善したとしても、それ以前に高血糖が長年続いていた人は、『高血糖の記憶』によってすでに血管にダメージが蓄積しているからです」

欧米のデータばかり使われている

 さらに、国立国際医療研究センターの研究についても、山田医師が次のように指摘する。

「あの研究は、カロリー制限派による『糖質制限叩き』が盛んだった2000年代の住民研究を集めたものです。その当時は糖質制限に不利な結果ばかりが論文化されていました。しかも、欧米のデータばかりが使われています。逆に、10年代になってからは、日本人の住民研究でも世界18ヵ国の共同研究でも、糖質の割合が少ない食事を摂っていた人ほど総死亡のリスクが低いという結果が出ています。食習慣は民族差が大きいのに、日本での研究結果を無視するのはおかしいですよね」