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「糖質制限で老化する」は本当か

衝撃の研究結果を徹底検証する

2018/08/24

日本人に糖尿病が増えた要因

 日本の糖尿病治療の指針を決めてきた本丸である日本糖尿病学会は、どう考えているのだろうか。同学会は糖質制限推進派の医師たちから、「日本の学会は頑なに糖質制限を否定し、エネルギー制限に固執してきた」と批判されてきた。それに対して同学会は、2013年に「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言」を公表している。

「食事療法に関する委員会」の委員長として、この提言をまとめた東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授・宇都宮一典医師は、次のように話す。

「そもそも炭水化物の摂り過ぎが、日本人の糖尿病が増えた主な要因とはみなせない事実があるんです。日本人のエネルギー摂取量は昭和30年代がピークだったのですが、その頃、総エネルギー量の70〜80%を炭水化物から摂っていました。むかしは身体活動量が多く、すぐエネルギーになる炭水化物を中心に摂取する必要があったのでしょう。それでも、今より糖尿病患者数はずっと少なかったのです。

 しかし現在、炭水化物の摂取割合は総エネルギー量の60%を切っています。一方で脂質の摂取量が増えており、25〜30%にもなりました。しかも、魚や植物よりも肉類から脂質やたんぱく質を摂ることが多くなり、食物繊維が減っています。

 象徴的なのが沖縄県です。かつては長寿県と言われたのに、若くして心血管病を起こす人が増えて長寿県から転落し、『沖縄クライシス』と呼ばれています。原因を調べてみると戦後の欧米化の影響を受け、明らかに脂肪摂取量が増え、欧米のような内臓脂肪型肥満になる人が増えました。

 内臓脂肪型肥満の要因は炭水化物ではありません。脂質の摂り過ぎこそ、日本人の糖尿病が増えた要因だと私たちは考えているのです」

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「エネルギー制限」は批判の的になってきた

 内臓に脂肪が蓄積すると、血糖を体内に取り込むホルモンのインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が高くなる。それが、日本人に糖尿病が増えた主な原因だというのだ。それに宇都宮医師は、「血糖値さえ抑えれば、糖尿病は進まないという単純な話ではない」と力説する。

「糖尿病はインスリンの作用不足によって起き、その原因は、インスリン分泌が低下しているか、インスリンの効きが悪くなることにあります。インスリンの作用は多彩で、高血糖は体内でのインスリン作用不足を示す指標であって、この病気の一つの局面を見ているのに過ぎません。糖尿病治療は、血糖値だけを改善すればいいというものではないのです。

 だからこそ、人それぞれのインスリンの量や効きに応じた適正なエネルギーを摂取する必要がある。太った人は内臓脂肪が原因でインスリンが効きにくくなるので、やせるために摂取エネルギーを減らす必要があります。一方、やせているのに糖尿病になった人は、それ以上やせてはいけないので、エネルギーを減らす必要はありません」

 これまで糖尿病の食事療法と言えば「エネルギー制限」だった。しかし、食材や料理ごとのカロリー計算が面倒なうえに満足な量を食べられず、ストレスで続けられない人も多かった。それが糖質制限推進派の医師らの批判の的にもなってきた。