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「糖質制限で老化する」は本当か

衝撃の研究結果を徹底検証する

2018/08/24

糖質制限とエネルギー制限は対立するものではない

 だが、意外なことに宇都宮医師は、「エネルギー制限が続けにくいのは確かで、一律にエネルギー制限と言ってきたことについては学会としても反省がある」と言うのだ。しかも、学会は糖質制限を否定しているわけではないという。

「糖質制限の効果を示したDIRECTという有名な研究があります。それによると、エネルギー制限食と魚介類が多い地中海食、糖質制限食を比べたところ、糖質制限食が最もすみやかに体重が落ちました。ただし、研究を詳しく見ると、糖質制限と言っても結局は炭水化物が減る分、エネルギー摂取量が減っている。つまり、糖質制限も実質上、エネルギー制限と同じなのです。したがって私は、糖質制限とエネルギー制限は対立するものではないと考えています。ただし、栄養バランスへの注意は必要。現在、学会としても、『その人に合った食事療法を共に考える』というメッセージを発信しており、適切な範囲であれば、糖質制限も一つの手段としてはアリだと考えています」

 実は、今回の取材で糖質制限を頭から否定する専門家はいなかった。ただし、ほとんどの専門家が、「厳しい糖質制限食はリスクがあるかもしれない」と考えていた。

 その理由は、ここまで述べてきた通り、糖質を制限する分、脂質やたんぱく質の摂取が増えるからだ。ただし、それらの栄養素が増えると人体に悪影響があるかは、専門家の間でも主張が分かれていた。つまりは、「老化」や「寿命」も含め、「明確な答えはまだ出ていない」のだ。

一日の摂取量の目安は?

 脂質やたんぱく質の摂取量が増えるだけでなく、厳しい糖質制限を続けると、エネルギー源として十分なブドウ糖を確保できなくなった人体は、脂肪酸などからつくられる「ケトン体」という物質をエネルギー源として利用するようになる。

 このケトン体が増えることについて「問題ない」とする専門家がいる一方で、懸念を示す専門家がいる。とくに糖尿病患者では血液が酸性に傾き、脱水状態になる「ケトアシドーシス」という重篤な急性合併症になる人がいる。それもあって、糖質制限に慎重な専門家が多いのだ。

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 こうしたことを踏まえて、前出の山田医師は糖質摂取量を一日70g〜130gとする緩やかな糖質制限を提唱している。これは、一食あたりごはんを半膳ほど食べられる量だ。山田医師が言う。

「ケトン体が大幅に増えて大丈夫なのかどうかも、実はよくわかっていません。江部先生のようにずっと問題のない人もいれば、一部にケトン体を代謝できず、危ない人がいるのかもしれない。それに、そもそも食事療法は楽しくないと続けられません。糖質制限がストレスになってしまったら、カロリー制限と変わらないことになる。

 ですから私たちは、安全で楽しく続けられるように、緩やかな糖質制限食を提唱しているのです。食品企業と協力して、おいしく食べられるロカボのパンやお菓子の開発も進めているので、ぜひそうした商品も利用してほしいと思っています」

 なお、宇都宮医師によると、糖質制限食を始めて勝手に薬やインスリンをやめたために、重篤な高血糖となって病院に運ばれる糖尿病患者が後を絶たないという。糖尿病の人は糖質制限をするとしても、くれぐれも医師と相談して行ってほしい。

 糖尿病予防やダイエット目的の人も、リスクがありうることを頭に入れたうえで、緩やかな糖質制限から段階的に取り組むのがいいだろう。

 科学的に見るとまだ不明なことも多い――それが糖質制限の「真実」なのだ。

(出典=文藝春秋2018年8月号)