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「韓国には2つの北朝鮮がある」 歴代最高位の北朝鮮亡命外交官・太永浩氏インタビュー

北への純粋な視点を欠く韓国

2018/08/24

 北朝鮮情勢が目まぐるしく動いた今年、韓国では北朝鮮関連本の売れ行きが好調だ。

『太永浩の証言 3号階書記室の暗号』 ©共同通信社

 なかでも、ベストセラーになっているのが、元駐英北朝鮮大使館公使を務めた太永浩氏の『太永浩の証言 3階書記室の暗号』だ。

 故金日成主席が核を開発することに至る舞台裏や北朝鮮特有の目眩まし外交戦略、そして金正恩統治に至るまでをつぶさに記したノンフィクションで、5月中旬に出版されてからこれまで14万部を突破し、「韓国で北朝鮮ものは売れないというジンクスを覆したといわれています」(全国紙記者)。

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 太氏は、2016年8月に英国から韓国に亡命した、北の亡命外交官の中では歴代最高位。

 今年5月末に所属していた大韓民国国家情報院傘下の国家安保戦略研究院を辞め、8月初めにブログ「太永浩の南北同行フォーラム」をオープンした太氏に自身の活動や今後の米朝交渉の展望などについての話を聞いた。

――まず、ブログを立ち上げた経緯について教えてください。

太永浩氏

「北朝鮮のそのままの姿、事実を知ってほしいと思ったからです。

大使館公使時代、国際社会での北朝鮮はひとつしか存在していませんでしたが、韓国に来てみると、2つの北朝鮮がありました。ひとつは、実際にある北朝鮮と、もうひとつは韓国の中で作り上げられた虚構の北朝鮮です。

 例えば、『平壌に実際に行ってみたら、ビアホールなどの娯楽施設もあり、ソウルと同じような生活をしている。太氏の本(『太永浩の証言 3階書記室の暗号』)では北朝鮮住民は独裁者のもと奴隷と化していると書かれているが、それは偽りではないか』と主張した韓国の方がいました。平壌にはもちろん娯楽施設がいくつかありますが、それを享受できる国民がどれだけいるか。

北朝鮮を語る時は施設の有無でも文化などの側面からでもなく、システムで語らなければなりません。指導者と国民がどういう関係にあるのか、社会主義という名分の下、国民が奴隷になっていることについて目を向けなければいけませんが、そうした事実は韓国では受け入れられない時がある。

 さらには、韓国では保守派と進歩派それぞれ北朝鮮へのアプローチ(接近)方法が異なっていて、純粋なアプローチがありません。

 オンライン上ならより多くの人にありのままの北朝鮮の姿を伝えられ、知ってもらうことができ、考えてもらえる。そして、それをもとにたくさんの人と意見を交換し合い、討論できます。そんな思いからブログを開設しました」

太永浩氏のブログ。英中韓の三ヶ国語で読むことができる

――ご自身は北朝鮮でも難関の平壌外国語学院(中・高等教育課程)から平壌国際関係大学に進み、外交官になられ、英語、中国語が堪能です。「南北同向フォーラム」で視聴できる講演の一部には英韓中の3つの言語バージョンもありますし、ブログにも英語や中国語で読める機能がついています。海外からの反応はありましたか?

「英語圏の方から、激励のメールをいただきました。

 日本の方にも読んでいただきたいので、今、日本語でも読めるよう準備を進めていて、8月末~9月頃には完成する予定です。

 ブログもこれから、自由討論の場を設けて、さまざまな意見交換をしたいと思っています。ほかには、私自身が韓国に来て体験したことや、新しく発見したことなどの話や、今や3万人を超える脱北者の中には大きな成功を収めた人がたくさんいますから、そうしたサクセスストーリーなども紹介していこうと思っています。

 日本の多くの方にアクセスしていただけるとうれしいです(笑)」