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カープ3連覇で思い出した、あの日の黒田博樹のこと

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/09/29
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 2018年9月26日、Mazda Zoom-Zoom スタジアム。広島東洋カープは球団初のリーグ3連覇を成し遂げた。V9おめでとうございます。ありがとうございます。

 優勝してすぐのタイミングでコラムの順番が回ってくるとは私は持っているのかいないのか。コラムが好評なら持っている、だめなら……持ってない、と。所詮勝ちか負けか。対戦式野球コラムだから。そうか。

 今シーズンの優勝は苦しかった。カープは強力な優勝候補とあげられたが、しかし開幕から何人もの怪我人、続出した不調な選手たち、交流戦は苦手に逆戻り。新井さんの引退表明も逆ブーストになり「新井さん! チームを置いて行かないで」状態に。マジックの最後はヤクルトが負けたから減ってくれたパターンが増えた。実にしんどい優勝だった。連覇とはかくも困難なのか。2017年も去年よりしんどいなあと思った。25年ぶりの2016年の優勝がいちばんすんなりいったのではないだろうか。皮肉なことに。

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思い出したのは、あの日の黒田博樹の姿

 優勝の瞬間を観るべくテレビの前にいたとき、思い出していたのは東京ドームでの黒田博樹だった。25年ぶりの優勝の日の黒田ではない。その更に1年前の東京ドームのマウンド。2015年6月30日、完封勝ち目前でのサヨナラ負けをくらった黒田だ。

 私はその頃野球の応援席漫画を描いていたこともあり、各球場ホーム、ビジターかまわず様々な席を購入し観戦していた。あの日の東京ドームは初めて女性専用席「ガールズジャイアンツシート」に座った。席がピンク色の場所で漫画の参考にと写真を撮りまくって、そして黒田の好投を観て、0-0の展開にはらはらしていた。特別な席なので試合後にグラウンドに降りてその日のヒーローインタビューに登場した選手と記念写真を撮ってもらえるという特典がある。8回前に指定された場所に集合して試合終了を待つのだ。

 グラウンドからの写真も撮れるならと取材魂で私は7回裏に席を立ち、集合場所へ向かった。そのとき大歓声がカープ側から聞こえた。丸がソロホームランを打ったのだ! スコアボードに初めて1が入った。私は嬉しくて笑いながら走ったと思う。集合場所は地下のモニターひとつがぽつんとあるコンクリートの暗い部屋だった。

2016年に現役を引退したの黒田博樹 ©文藝春秋

 当たり前だが、ガールズジャイアンツのイベントなので私以外は全員巨人ファンだ。特典のある席を選んで買う皆さんだから見るからに熱烈なファンだった。好きな巨人選手のユニフォームを着てグッズを手に持ってはしゃいでいる。私だけ普通の服にカメラだけ持ってうつむいていた。失礼になるけぇカープが勝った瞬間の笑みを隠さねば、と。1点勝っとるんじゃけ。

 可愛いチアの女の子2人が来て「一緒にここから巨人を応援しましょう!」と場を盛り上げ、加えて球団職員の男性が「このあと! サヨナラして! 皆さんグラウンドに行きましょー!」と畳みかけた。コンクリートの部屋はキャーッという応援の声が響き渡り、9回裏の巨人の攻撃をモニターで見守る形となった。

 黒田は投球数100球を越えていたが続投を志願しマウンドに立った、日本復帰後の初完封もかかっていた。1死、あと2人。

 そして。同点タイムリーを打たれ、犠飛でサヨナラ。

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