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“文明の利器”ウォシュレットが現代人の肛門を軟弱にした

決して笑い事ではない“シャワートイレ症候群”の深刻度

2018/09/22

genre : ライフ, 医療

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「お尻だって洗ってほしい……」

 戸川純が出演したTOTOのCMが流れたのは1982年のこと。どうやらこのあたりから、シャワートイレ(ウォシュレット)の普及が急速に進んだようだ。

 今では多くの家庭はもちろん、企業や公共施設でもシャワートイレが設置されている。

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「お尻を洗える国・ニッポン」の豊かさ

 しかし、海外に目を転じると、日本ほどの普及は見られない。そこそこの高級ホテルでも設置されていないところが多く、公共施設においてはまず期待できない。

 海外旅行に出かけた時、旅行の終盤は排便を我慢し、日本の空港に着くとすぐに「トイレ」に駆け込む、という人もいる。そして、空港のトイレの便座に腰掛け、「お尻を洗える国・ニッポン」の豊かさをしみじみ実感する、という人もいる(筆者です)。

 ただ、昭和40年生まれの筆者は「シャワートイレのない時代」を経験している。その気になれば、紙だけで生きていくこともできるだろう。

 しかし、シャワートイレが普及してから育った世代の人には、あるいは年配者の中でも、シャワートイレの利便性に依存しすぎてしまうと、「紙だけの生活」に馴染めない人もいるようだ。

 

国内では普及が進んだシャワートイレだが…… ©iStock.com

東南アジアへの出張のたび、肛門周囲を損傷させて帰国する

 Kさん(26)は、物心がついた時にはすでに、家のトイレにはシャワートイレが設置されていた。小学校と中学校のトイレは「紙だけ」だったが、そもそもその時代は学校で排便(大のほう)をすることがなかった。

 高校に入ると学校で便意を催すこともあったが、先生の目を盗んでシャワートイレの設置してある来客用トイレを使うなどして、何とか凌ぐことができた。そして、大学のトイレにはシャワートイレがあった。

 早い話が、「排便後のお尻の洗浄」に困ることなく大人になった世代なのだ。

 そんな彼が今、窮状に喘いでいる。

 大手物流企業に入社した彼は、年に何度か海外、特に東南アジアへの出張がある。一度行けば1~2週間は帰れない。そして毎回、肛門周囲を損傷させて帰国するのだ。

山口トキコ医師

「Kさんのような人はとても多いんです」

 と語るのは、東京・赤坂見附にある肛門疾患専門クリニック「マリーゴールドクリニック」院長の山口トキコ医師。詳しい事情を聞いた。

「“シャワートイレ症候群”と呼ばれる病態で、症状の出方は様々です。排便後のお尻を水や温水を使わず、紙だけで拭き取ることに慣れていない人は、必要以上に強く擦るので、それで出血を招くことがあります。

 また、何度も繰り返し擦ることで“痒み”を招くこともある。当人は、痒いのは便が付いているからだと考えて、さらに何度も紙で擦る。でも実際は擦り過ぎることで肛門の皮膚が炎症を起こして痒くなっているだけなんです」