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連載近田春夫の考えるヒット

いい具合に年季を感じさせる竹内まりやの大人の歌い方――近田春夫の考えるヒット

2018/11/14

『小さな願い』(竹内まりや)『Start To Rain』(ナオト・インティライミ)

絵=安斎 肇

 別に“エントロピー”などという概念を持ち出すべくもなく、誰も老いから逃れることの叶わぬのは知っている。

 社会が芸能人に求めることのひとつといえば、そうした意味での永遠性、大袈裟にいい換えれば“芸”としての“時間を止めてみせる奇跡”の披露だろう。無論それがファンタジーとは知りつつもだ。

 ただ、若い! と一口にいっても色々ある。不自然な整形やカツラなど、無理した若作りのかえって痛々しく映る場合もあるから、そのあたりの兼ね合いはなかなか難しい。とはいえど、老けたというのが褒め言葉になるなんて——殊にアイドルなどでは——現実の芸能人にはそうそうあることではない。たかだか見てくれの問題とはいうまい。結構この業界の人たちも、側から見ているよりは生き抜く為の苦労はしているのである。

 理想をいえば「普通に歳をとっているけど、デビューの頃と変わらないなと誰しもが実感させられる」外見の保持であろうが、そんなのはローリング・ストーンズぐらいのものだ。ポール・マッカートニー来日のニュースをTVで観たときも、もう色気とかは全然なかったもんなぁ。

小さな願い/竹内まりや(ワーナー)この11月で40周年を迎える彼女の、4年ぶり、43枚目のシングル。映画『あいあい傘』主題歌。

 なんでこんな話になったかというと、竹内まりやの新曲を聴いたからだ。4年振りというからそれほど久しぶりの発表ではないようだが、個人的にはずーっと彼女の歌を耳にしてこなかったので、とにかくまず懐かしかった。そしてその懐かしい歌声を聴いているうちに、なんか彼女、いい具合に年季が入ってるなぁと、だんだんとそんな風なことを感じていったのである。

 つまりこれは誰が聴いても竹内まりやの声である、なのだが若い頃とはどこか何かが違う。その程よく“なれた”風味が魅力的というか……。

 私生活を窺わせる、セレブ感などを醸し出しつつも、お馴染みというか持ち味の、女の(情念のような)ナマな部分もちゃんと健在なのだ。

 それが果たして“スキル”なのか、構えるところなどない無意識の発露/賜物なのか。判断のイマイチつかぬ着地に、私は“年季”という言い回しを持ってきたのであるが、いずれにせよこの歳まわりの日本の女性歌手はというと、昔と変わらない若さのアピールをしてくるか、開き直って熟女の迫力で勝負を挑んでくるか、まぁ必ずといっていいほどどちらかに属してしまう(わかりやすい)ものなのだけれど、この竹内まりやは珍しくそのどちらでもない“大人の歌い方”をしているように、俺には思えたのだった。

 あっ、結局あんまりストーンズとは関係ない展開だったっすね(笑)。失礼しやした。

 曲調はしっかりと路線を踏襲していて、マーケットが竹内まりやに望んでいる世界が文句なくここにはある。この先彼女のこの世界は、支持者とともにどのように時間を進んでゆくのだろうか? ちょっと興味深いところではある。

Start To Rain/ナオト・インティライミ(ユニバーサル)昨年の“自分を見つめ直す”世界旅行後2枚目、通算21枚目となるシングル。

 ナオト・インティライミ。

 その、音楽の屈託のなさをあいも変わらず楽しめる作品。

今週の未来志向「ハロウィンの日、渋谷でオレのイベントがあってさ。町には仮装した若い人が溢れていて、日本語の他に中国語、韓国語、ベトナム語なんかが飛びかってたけど、もう見た目じゃ誰が何人かなんて全然わからない」と近田春夫氏。「ナショナリズムや対立を煽る人たちもいるけど、少しずつそういう話からみんなが遠ざかっていくと信じたいね」

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