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テレビの現場から見た「渋谷系」と「ピチカート・ファイヴ」の世界――野宮真貴×坂口修インタビュー

野宮真貴×坂口修 #1

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「渋谷系」を歌い継ぐ元ピチカート・ファイヴのボーカルでシンガーの野宮真貴さんが、10月31日に『野宮真貴 渋谷系ソングブック』をリリース。90年代になり、ピチカート・ファイヴが世界的に評価されていく中で、当時シティボーイズのマネージャーだった音楽プロデューサーの坂口修さんは、少し離れた地点からどう「渋谷系」を見ていたのか。速水健朗さん、おぐらりゅうじさんが、二人に詳しくお話を伺いました。

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「野宮さんが歌うことで、どんな曲でも渋谷系になる」

おぐら 今回リリースされた『野宮真貴 渋谷系ソングブック』は、2013年からはじまった「野宮真貴、渋谷系を歌う。」シリーズのベスト盤ということで。

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速水 渋谷系の名曲を野宮真貴がカバーするというプロジェクトですね。

左から、坂口修さん、野宮真貴さん、速水健朗さん、おぐらりゅうじさん

野宮 はい。きっかけはデビュー30周年の時にセルフカバーのアルバム『30』を出して、私の歌手人生で一番重要なピチカート・ファイヴの曲を久しぶりに歌ったことで、改めて渋谷系の楽曲の素晴らしさに気づいて。そこからバート・バカラックなど、渋谷系のルーツも21世紀の新しいスタンダードナンバーとして歌い継いでいこうと、このプロジェクトがはじまりました。

坂口 もともと「野宮真貴、渋谷系を歌う。」プロジェクトは、野宮さんでバカラックのカバーアルバムとかいいんじゃない、っていうところからスタートしたんです。そこから発想して、渋谷系のルーツとなった名曲たちを、スタンダードナンバーとして野宮真貴が歌い継ぐのはすごく意味があるし、無尽蔵に広がっていくので、いくらでも選曲できるなって。それに、元祖である野宮さんが歌うことで、どんな曲でも渋谷系になる。

おぐら クレモンティーヌが歌えばフレンチポップになる、みたいな。

 

坂口 野宮真貴が歌えば渋谷系になる、っていうね。それに渋谷系の曲って、日本に限らずフランスとかでも、ヘタウマな感覚の歌だったりすることが多いですよね。でも楽曲としてのクオリティは高いので、歌の上手い野宮さんが歌って、アレンジとか音楽的な作りもしっかりやれば、また新しく生まれ変わるんです。

速水 最初にひとつ聞きたいのは、言葉としての「渋谷系」は、当時のミュージシャンをはじめとした音楽の当事者たちから生まれた言葉ではないですよね?

野宮 あの頃は自分たちでは使ってなかったですね。

坂口 たしかに当時はネガティブな言葉として受け取られることもありました。でも20年以上が経ち、あのニュアンスとカテゴリーを表現する言葉として「渋谷系」以外は思いつかなかった。この言葉は、90年代に生まれた音楽を指すだけじゃなく、あの当時のミュージシャンたちが影響を受けた過去の様々な年代の文化を包括できるんです。

野宮 だからこそ、渋谷系のアーティストたちがリスペクトする、ルーツとなった曲も含めて「渋谷系」と呼んでいます。

速水 なるほど。野宮さんがセルフカバーではなく、最初にカバーした渋谷系の曲はなんですか?

野宮 小沢健二くんの「ぼくらが旅に出る理由」です。きっかけとしては、デザイナーの丸山敬太さんから、コレクションのテーマソングとして歌ってほしいと声をかけていただいて。