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書店員が語る 角幡唯介『極夜行』が「本屋大賞」に選ばれた理由

 書店員が「いちばん!売りたい本」を選ぶ「本屋大賞」。毎年大きな注目が集まるこの本屋大賞に、このたびノンフィクション部門が創設された。「Yahoo!ニュース 本屋大賞 ノンフィクション本大賞」としてスタートした新たな賞は、約100名の書店員による投票を経て9月にノミネート10作品を決定。さらなる選考によって、11月8日、受賞作が発表された。

角幡唯介さん ©文藝春秋

 大賞の栄誉に輝いたのは、探検家・角幡唯介さんの極夜行』(文藝春秋)だ。太陽が地平線の下に沈んだまま姿を見せない北極の冬を、一頭の犬とともに過ごした4カ月の壮絶な記録である。

 受賞式で角幡さんは、

「今は検索したらすぐに答えが出てくることに慣れてしまって、情報や事実を手に入れるためには、リスクと労力をかけなければいけないということが分からなくなっている」

 と、手軽な“検索”依存への警鐘を鳴らした。

「今回の旅の内容は、真っ暗な夜の世界を歩いて最後に太陽を見るという抽象的なテーマですが、その中に普遍的なものを表現できたという手応えがある」

©文藝春秋

 選考に参加した書店員からは、『極夜行』への絶賛の声が相次いだ。

「『極夜』という漆黒の闇の世界を見事に描いています。自然だけでなく、人生そのものにも光と影があり、生きること自体が冒険だという著者の思いが、本全体から伝わってきました」(三省堂書店・内田剛さん)

「闇の世界である『極夜』を月が照らすと、楽園のように美しく見える。その月明かりのもたらす幻想を、角幡さんはかつて夢中になって通ったキャバクラのホステスさんにたとえます。『月のやり口はまるで夜の店の女と同じだった』という一節には、思わず共感してしまいました(笑)。これ、奥さまは読んでいて気にならないのかな」(丸善&ジュンク堂書店・勝間準さん)

「死にかけているときにクラブの女性を思い出すような、突然全く脈絡のない妄想が展開するところなどは、村上春樹の小説にも通じる文学性がありますよね。何はともあれ、メチャクチャな旅から角幡さんが無事に帰国し、面白い作品を書いてくれたことが本当にすばらしい。今回の賞金の100万円を、また次の冒険に使ってもらいたいですね」(丸善・高頭佐和子さん)

文藝春秋12月号

「文藝春秋」12月号では、「本屋大賞」実行委員による座談会を掲載。『極夜行』を含むノミネート作10冊について、鋭い分析とともに読みどころを紹介している。

「明らかにされなかった事実は、なかったことと同じになってしまいます。誰かが労力をかけて事実を発掘しないと、世界は暗黒になってしまう」

 こう語った角幡さん。世界を読み解く道しるべとなるノンフィクション作品の数々を、この機会に書店で手にとってみてはどうだろうか。

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