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社員と向き合わない経営者に「働き方改革」は無理だ

2019年の論点100

2018/11/26
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『文藝春秋オピニオン2019年の論点100』掲載

 ここ数年、議論されてきた「働き方改革」ですが、2018年6月に関連法が成立した後も、問題が収束したようには感じられません。勤務時間や場所を社員自身が決められる「100人100通りの働き方」を提唱してきた私たちサイボウズには、取材や講演依頼が、いまも続いています。

 この問題の根底には、働く人(社員)と、働かせる人(経営者)との食い違いがあります。社員は「働き方」を変えて、自分たちの幸福度を上げたい。一方で経営者は「働かせ方」を変えたいと思っている。「長時間労働は批判されるから、とにかく残業させるな。でも業績は落とせないので生産性を高めろ。短い時間で成果を出せ」と。

 そうした経営者に申しあげたいのは、「まず目先の業績や生産性は我慢してほしい。その上で、社員の幸福度を上げることにコミットしてみたらどうですか」ということです。そうすれば生産性も、長期的な業績も上がります。

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 そう言えるのは私自身の成功体験があるからです。私たちサイボウズは、かつて典型的なITブラック企業でした。徹夜の会議は当たり前。創業メンバーの私も、疲労のあまり気絶するほど長時間、働きましたが、ベンチャーはそれが当然だと思っていました。

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 その結果、私が社長に就任したときの離職率は28%。これでは新商品の開発や事業拡大など望むべくもない。そこで私は、社員の定着率を上げようと、まず勤務時間の削減に取り組みました。

 ところが退職する人は減りません。そこで社員の声に丁寧に耳を傾けました。すると退職理由は一様ではなかったことが分かったのです。勤務時間や勤務地の問題もあれば、高い収入を求める人も、逆に、収入よりモチベーションを求めて飛び出す人もいました。

 そこで、このような社員の多様なニーズに応えようと、勤務地や勤務時間を社員が選べる制度を導入。高性能なパソコンを支給して、ITを駆使したコミュニケーションツールを導入しました。こうした経費をケチるくせに「生産性を上げろ」という経営者には、「どの口が言うんや」といいたい。