文春オンライン

安倍首相は「蚊帳の外」 北朝鮮とロシアの“蜜月”をウラジオストクで考えた

エネルギー利権、北朝鮮労働者ーー。不気味なまでに利害を一致させている

2018/11/30
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 安倍首相はG20に出席するため、アルゼンチンへと旅発った。現地では、ロシアのプーチン大統領と日露首脳会談が予定されている。「戦後外交の総決算」を掲げている安倍政権は果たして成果をあげることができるのだろうか。

 9月、ロシアのウラジオストク市で開催された「東方経済フォーラム」に出席した安倍首相は、プーチン氏に2018年末までの「前提条件なしの平和条約締結」を提案された。これはつまり、ロシアが領土問題(北方領土4島返還)を切り離して平和条約を締結したいと言っているも同然である。

筆者は9月にウラジオストクを訪問

 安倍首相は、こうした態度をとるプーチン氏に対し、北方領土の問題にいかに斬り込むのか。北朝鮮の拉致・核・ミサイル問題を解決し、国交正常化を果たせるのか。いままさに岐路に立っている。

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 他方、モスクワには10月末から北朝鮮の高官が次々と入っており、ロシアと北朝鮮初の歴史的な首脳会談が実現しようとしていることは、あまり知られていない。

プーチン氏の外交デビューは北朝鮮だった

 大統領に就任した2000年、プーチン氏が外交デビューの舞台として選んだのが北朝鮮だった。金正日総書記との会談では、北朝鮮が抱えるロシア(ソ連時代を含む)にたいする累積赤字110億ドル(1兆1220億円)の軽減について協議を開始し、ロシア連邦議会は2014年、累積債務の90パーセントを帳消しにすることを承認した。その引き換えにウラジオストク市に隣接する北朝鮮の羅津港の使用権を獲得、さらに2013年には羅津港とロシアは一本のレールで繋がった。ロシアは新たな不凍港を取得し、シベリア産の石炭などを一年中アジア諸国に輸出できるようになった。

ロシアの新たな「不凍港」に隣接するウラジオストク市

天然ガスがもたらす莫大なエネルギー利権

 プーチン氏が不凍港の取得以外にもロシア極東に力を入れているのはもう一つ理由がある。天然ガスをめぐるエネルギー利権の問題である。

 プーチン氏はウラジオストク市で2015年に「東方経済フォーラム」をはじめて主催し、毎年9月の開催が定例化している。日本や中国、韓国をはじめとして近隣諸国の企業家を招いてロシア極東への投資を呼びかけており、北朝鮮の経済使節団も参加している。プーチン氏の構想では、サハリン北部で採掘されている天然ガスのパイプラインは現在、ウラジオストクまで敷設されているが、さらに北朝鮮から韓国、そして中国東北部に延長し、莫大なエネルギー利権を確立したいのだ。