「ずっとこの風景を」
その快進撃の中心となったのはエースの島野だった。ボーイズリーグ、ジャイアンツカップの予選を突破すると、ボーイズリーグの全国大会こそ2回戦で敗れたものの、中学硬式野球5連盟が一堂に集うジャイアンツカップで各地の強豪を相手に鮮烈な活躍を見せる。
2回戦の相手はリトルシニア日本選手権で4強入りした強豪・江戸川中央リトルシニア。その打線を2点に抑える完投勝利を挙げると、中1日で迎えた準決勝の弘前聖愛リトルシニア戦では、春全国8強の相手にも10安打を浴びながらも粘りの投球で3失点完投勝利を挙げた。ストレートは最速で110キロ台と決して速くはないが、ブレーキの効いたカーブなどの変化球だけでなく、フォームでも緩急つけるなど「やりたいことが全部できました」と男子打者たちを翻弄した。
そして迎えた決勝戦の舞台は東京ドーム。相手は日本ハムの杉谷拳士、万波中正らを輩出してきた名門・東練馬リトルシニアだ。前日に7イニングを完投していた島野は抑えとして待機した。
試合はともに切磋琢磨してきた京本眞が6回無失点に抑え、2対0でリード。小林監督は最終7回のマウンドに島野を送った。
「マウンドに上がる前は今までのことを考えました。そして、夢の中にいるようなふわふわとした気持ちでした」と、いつにない緊張感で先頭打者を四球で歩かすと1アウト後に連打を浴びて満塁のピンチを作った。ここで代打に主将が起用され、“二塁走者が還れば同点、一塁走者が還れば逆転”という相手に完全に流れが傾いた場面。
それでも心の中は「今思うとなんかゲッツーを取れそうな気がしたんです」と、厳しい環境を克服して強靭な身体だけでなく精神力も手に入れていた。2ボール2ストライクに追い込むとイメージ通りの投手ゴロに打ち取り、自ら処理して本塁に送球すると1-2-3のダブルプレーとなり、見事に胴上げ投手となった。
「2年半頑張ってやってきて良かったです。ずっとこの風景を思い描いて練習してきたので、みんなで嬉しい気持ちになれて一生の思い出です」
ヒーローインタビューで涙を抑えることができずに声を震わせた。
次なる夢は
4月から昨春日本一に輝いた神戸弘陵高女子硬式野球部でプレーする志望だ。足元もしっかりと見つめながらも大きな野望も抱く。
「捕手とのコミュニケーションも一からになるので、浮かれずにやっていきたいです。目標は記録を作ること。チームの勝利はもちろんですが、一般の方でも分かるような記録を作って女子野球を有名にしたいです」
今回の快挙は複数のメディアでも取り上げられ、球場で野球を観ていた際には小学4年生の女の子から「テレビで観ました。おめでとうございます」と声をかけられ、そうした思いもよりいっそう強くなった。
好きな言葉は「ど根性」。周りはすべて男子の中で必死に食らいつき、中学野球の歴史を変えたその努力と工夫で、次は女子野球の未来を変えるべく新たなステージへと踏み出す。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ウィンターリーグ2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/10466 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。