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「1軍の試合……開幕戦にもう一度出たい」

 3年が経ち、輝かしい舞台は少し遠く感じる。17年の春季キャンプ中に脳腫瘍を患い、半年以上に渡る闘病生活を経験。復帰したものの、過去2年、実戦には全く出場していない。18年からは育成契約に切り替わり、背番号も124と重くなった。試合に出るためにクリアしなければいけないハードルが何個も増えた。開幕スタメンを勝ち取った若虎に与えられた、巨大で高い壁。試合に出たくても出られない絶望に打ちひしがれながらも横田は、全身に刻み込むあの「3月25日」を今も思い返しながら、大きな目標に据えている。

「1軍の試合……開幕戦にもう一度出たい。何より、背番号24を取り返したい思いが一番です。病気で育成に落ちたとか、そんな言い訳は全くない。自分の中では野球がうまくないから落ちたと思ってますから」。言葉に飾りや偽りはなく、選手の本能だけがにじむ。

「背番号24を取り返したい」と話す横田慎太郎 ©チャリコ遠藤

 今年のタイガースは、16年と同じ京セラドームで開幕戦を戦う。指揮を執るのは、昨年2軍監督を務めた矢野燿大。横田の奮闘を、一番近くで見守ってきたと言っていいかもしれない。出場できなくてもベンチで声を張り上げ、今できることに全力で取り組む姿を知るからこそ、就任会見の際、期待する若手に唯一の個人名として横田を挙げた。

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「エールじゃないけどね。あいつ自身も諦めてないし。あそこ(開幕戦のような舞台)に戻りたいっていうのが、原動力になってるし、逆に言うと、苦しさ、もどかしさにもなってる」。16年、当時1軍の作戦兼バッテリーコーチだった指揮官も、背番号24の躍動に「将来を担っていくような選手になる」と未来を見た1人だ。そして、監督としてベンチを預かる身となって、あらためて横田慎太郎というプレーヤーが唯一無二であると感じている。「塁に出たり、盗塁したりグラウンドで暴れ回ることで、みんなのムードが上がるような、チームに欠かせない選手だから」。

 就任会見での出来事を、横田は2軍スタッフから聞かされた。「名前を出してもらって感謝したいですし、結果で返したい」。昨年、試合中の声出しとともに欠かさず続けたのが、指揮官の目の前の位置に座り続けることだった。直接、話しかけることもあれば、コーチ陣との会話にも耳を澄まして、知識を蓄えた。信じてくれている監督への恩返しは、甲子園での快音だと心に決めている。

「今年は試合に出たいです。何か結果で示せるように。試合に出て、恩返しがしたい。一番下からの戦いですけど、目標だけは持ってやりたいです」

 あれだけ大股で大きなステップを踏んでサクセスロードを駆け上がろうとしていた男が、今は1日半歩、いや、時には進めないこともある。人知れず、すでに気持ちは何度も折れそうになったのかもしれない。だからこそ、横田は3年前の記憶を今呼び起こしている。誰も想像できなかったことを、現実にして見せたあの1日。もう一度、背番号24で春を駆ける。

「試合に出て、恩返しがしたい」 ©スポーツニッポン

チャリコ遠藤(スポーツニッポン)

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