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「僕はあの子達を裏切ることはできないんです」

 藤嶋には下を向いていられない理由がある。

「妄想で言うと、昔、テレビドラマの教師役も格好いいなと思っていたんですが、去年の12月に実現したんです」

 中日ドラゴンズはオフに名古屋市内の小学校に現役選手を派遣し、夢について語る「夢授業」というイベントを行っている。

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「小学校5年生でした。みんな素直で可愛くて、ものすごく楽しかったんです」

 教壇で藤嶋は伝えた。

「腐っちゃ駄目と。心が折れても、腐らないでと。だから、僕はあの子達を裏切ることはできないんです。苦しくても、一歩ずつ前を向いて進まないと」

 誰もが大きな収穫を期待していた藤嶋という畑は血行障害という被害に見舞われ、芽も出ない状態に陥った。しかし、その荒れ果てた地の底にある根は腐っていない。それどころか、妄想という栄養で育っている。では、芽が出るのは一体いつなのか。

「さっきの復帰登板は夏過ぎのイメージです。できれば、もっと早く。もちろん、1軍で投げることも諦めてはいません。少しでもチームに貢献したいです」

 残暑厳しい灼熱のナゴヤ球場。私は内野スタンドにいる。大きな歓声が聞こえる。視線の先はマウンド。背番号54は小気味良く、切れのあるストレート、大きなカーブ、鋭いフォークを投げている。無事に1イニング終了。鳴り止まない拍手。右腕は汗をぬぐった。悲壮感は微塵もない。

 その日を待っている。信じている。

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