物議をかもしている、応援歌の“おまえ”問題。ピンク・レディーの名曲「サウスポー」の歌詞を「“おまえ”が打たなきゃ誰が打つ」と替え、中日ドラゴンズの応援団が使用していたことについて、与田剛監督が「選手の名前で呼んでほしい」と球団側に相談。球団が応援団に要請し、今月から使用を自粛することになったというものです。確かに私自身、“おまえ”と呼ばれたらいい気はしないなぁなんて思っていました。しかし、気づいたんです。あの問題以降、高校野球の原稿を書いていて必ず手が止まる瞬間があるということに。

「監督に“おまえ”に期待してると言われたんです!」
「キャプテンは“おまえ”しかおらん!って仲間に言われました。」

 頻繁に“おまえ”というワードが出てくるんです。関西で生まれ育って31年。考えてみると“おまえ”という言葉は、当たり前のように飛び交っています。中日の与田監督もこのような問題になるとは思わずに発言されたと思うのですが、ではどこか言葉がキツイと感じられやすい関西弁が飛び交う関西の地ではこの問題がどう受け止められているのか。関西では当たり前の“おまえ”をタイガースファンはどう思っているのかなぁ~そんなことを思っているとタイミングよく私が出演している毎日放送の情報・報道番組ミント!で関西を代表する2つの商店街で、プロ野球の応援歌で“おまえ”を使うことをどう思うかを聞く街頭インタビュー企画がありました。出てきた結果が関西文化丸出しで実に面白かったんです。

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関西で“おまえ”という言葉は当たり前のように飛び交っている ©文藝春秋

関西人は“おまえ”問題をどう思っているのか

 まずは日本一長い商店街として知られる大阪市にある天神橋筋商店街。60代女性は「別にいいと思いますよ。親しみで“おまえ”って言ってるんじゃないですかね」自身も子どもに対して怒るときに“おまえ”というワードを使うそうなんです。40代男性は「全然いいんじゃないですか? 普通にいいますよ“おまえ”って!」侮辱の意味は全くなく、むしろリスペクトの精神で使っているんですって。70代女性にいたっては「“おまえ”は“おまえ”やないの? そもそも昔から“おまえ”はいい言葉や。それをちゃんと教えるのが学校の先生や!」まさかの教育現場へのご指摘が入りました。でもね、ちょっと気になったので国語辞典で調べてみました。恥ずかしながら私は今まで知らなかったのですが、“おまえ”=“御前”は、女性の言うように敬う意味で使われていたようです。

【御前】[名]「おおまえ(大前)」の音変化で、神仏・貴人の前を敬っていう。転じて、間接的に人物を表し、貴人の敬称となる。
[代]古くは目上の人に対して用いたが、近世末期からしだいに同輩以下に用いるようになった。二人称の人代名詞。親しい相手に対して、または同輩以下をやや見下して呼ぶ語。(goo国語辞書参照)

 とあります。時が流れるにつれて使い方が変わってきているようですが、やはりそもそもは目上の人に対して使われていたということがわかりました。

日本一長い商店街として知られる天神橋筋商店街 ©iStock

 では、日本一早くマジックを点灯させることで有名な尼崎中央三丁目商店街のみなさんはどのような反応だったのでしょうか。60代男性は「全然OKじゃないですか? 日常会話で聞こえますよ!」といいつつ、奥様に“おまえ”と言えますか?という問いには晩御飯1回は抜かれるでしょうねと苦笑いです。20代と60代の母娘も「応援歌やもん! 全然OK!」としつつ、自身が言われることに関しては「腹立つ! 応援歌とは別や!」とのこと。多くのファンは、応援歌ならいいけれど自分が“おまえ”と言われることに関しては腹が立つという結果に。

 地域性を唱えたのは70代の男性です。「大阪やったらええんちゃう? 名古屋やからこういう問題になるんちゃう?」尼崎はもちろんOK! 関西であればどこでもOKではないかという意見です。唯一“おまえ”はどうかと思うと言ったのは、ファンの中でも有名な女性です。「そりゃ失礼じゃない?」。これは選手を敬う気持ちからだといいます。「私は阪神ファンだけどいつも応援するときに“福留『さん』頑張って!”というようにしてるんです。『さん』つけたほうが、選手が聞いていても気持ちが違うんちゃうかなと思うんです。」