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丸佳浩移籍の“心の傷”が癒えない理由――あるカープファンの面倒な思い

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/09/06
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ファンとして「救い」が欲しいのだ

 移籍した選手は自分やチームのために頑張ればいいけど、ファンは違う。ファンは受け身。つまり、望んでもいない悲しみや寂しさを味わわなければならない。別に移籍した選手を責めたいのではなく、何千、何万というファンがそういう「傷」を負っていることをしっかり理解してほしいということ。もしそれをなにかの形でちゃんとカバーしてくれるなら、正直、誰がFAしても文句は言わない。受け身であるファン、応援してくれたファンを本当に救う言葉や行動があれば。たとえば金本が阪神に移籍した時の入団会見で言った「赤ヘル野球をするだけです」。黒田がメジャーに行くときの涙。言うなればそういうこと。ファンに「ヨシ、行ってこい!」。そう思わせてくれればいいのだ。黒田の涙は狙って流したものじゃないけど、金本に関しては明らかにカープファンへの気遣いを感じた。引退後に広島の特番に出た時にはプレゼント用の色紙にサインと「10」。なんとカープ時代の背番号を書いてくれた。そういう気遣いこそプロ野球選手に必要なこと、ファンあってのプロ野球界に必要なことだと私は思う。

2年連続でセ・リーグ最優秀選手賞に輝き、カープの3連覇に大きく貢献した丸佳浩 ©文藝春秋

 数日前。東京に住んでいる自分は、山手線の車内で巨人のユニフォームを着た親子の会話を耳にした。おそらく東京ドームの試合の帰りだろう。小さな男の子が「やっと優勝できるね。やっぱり坂本のお陰だね。1年目で優勝させる原監督もすごいよね」。さて、お父さんはどう返すんだ? 気になって聞き耳を立てていると「カープから来てくれた丸を忘れちゃダメだ。たしかにホームランや打率は坂本の方が上かもしれない。でも、出塁率やフォアボールは丸の方が上。それだけすごい選手をカープが育ててくれたということなんだ」。私は思わずそのお父さんを抱きしめそうになった。強く抱きしめ「よく言ってくれた! お陰でこっちにシワ寄せが来てるけど、アンタ、最高のお父さんだよ!」。そう言いたくなった。私の心は救われた。奇しくも、丸の移籍先のチームのファンであるお父さんによって。

 ようするに私はファンとして「救い」が欲しいのだ。いまある心の傷は時間が解決してくれるかもしれないけど、それは自分の心が自然と行うもの。そうではなく、私は選手に救われたい。謝れとかそういう攻撃的な意味ではなく、丸で言えば過去の録画をバンバン観られるようになりたいし、巨人の優勝の輪の中にいる姿を見て素直に「良かったね」と言いたい。私は、あのお父さん、丸とカープへのリスペクトを忘れないたったひとりのお父さんに救われた。もしそう思わせてくれるのが移籍した選手自身だったら、どれだけ気持ちが楽になるだろう。丸もそう、これから移籍する選手もそう。どうか、私のように女々しくて面倒なファンのために「救い」を与えてください。どうかよろしくお願いいたします。

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