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 しかし、そうした風通しの良い雰囲気を支えていたのは、「自分たちは日本の頭脳である」という、一人ひとりの自負だった。「筑駒生というだけで、いろいろ特典があって」。例えば東大への最短距離とされ、有名進学校生のみを対象とする大学受験塾「鉄緑会」に、筑駒生は入塾試験を受けずに入ることができた。また、大手予備校の代々木ゼミナールでは、筑駒という学校名だけで授業料無料の特待生になれた。近所の他の学校に対しても、「馬鹿にしている感じがありました」。

同級生の與那覇潤や安田洋祐は「本当の頭脳」だった

 森林は入学して間もなく、同級生たちの頭脳に衝撃を受けた。「理屈抜きで、とにかく絶対に勝てない、10を聞いて100を知るような異常に頭のいいやつらがいるんです。でも自分は、10を聞いて8を理解するようなレベル。歯が立つわけがないんです。同じ授業を受けてなぜあんな違いが出るのか、まったく分からなかった」

中学時代の文集(本人提供)

 筑駒では高2の3学期から、有名な「特別考査」という学内試験が定期的に行われる。東大入試を意識した筑駒独自の試験で、その順位は一斉発表されることはなく、先生から本人にだけ伝えられる。「そこで何位だったら東大に受かるよ、っていうのが筑駒の歴史の中で数値化されているんです。なかでも、トップ40が本当の頭脳。僕の同級生だと、歴史学者の與那覇潤とか経済学者の安田洋祐は、もちろん40位以内。学年は上になりますけど、評論家の東浩紀さんはトップ3だったと聞きました。でも僕は常にドベから5位以内で」

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「エロのことなら俺に聞け」

 それでも、「これはトップの中での違いで、世間一般から見れば、やっぱり自分には特別な能力があるという思いは、ずっと持っていました。先生も、筑駒というくくりで接してくるので」。もともと自信があった勉強では、周りのやつらにかなわない。それでも、何か“得意”があれば、学校の中で一目置かれる。そんなとき、森林が見つけた「アイデンティティ」とは何だったのか。

 

「勉強で言えば、現国だけは成績が良かったです。頭の良いやつは、人間の心情とかは不得意なことが多くて、そこでは勝負ができました。あとは行動力に発言力。僕には恥をかくって概念がないんで。それと……エロです。エロのことなら俺に聞け、と」

 天才の集まりである筑駒の中で、“役割”を見つけた森林。だがのちに、彼はそれまでの自分を支えていた全能感を、粉々に打ち砕くような「挫折」と直面することになる。そして、そこで下した選択こそが、彼を“アウトロー”な世界へと導いていくことになるのだ。

撮影=杉山秀樹/文藝春秋

#2に続く