素手でキャッチを試みたものの……
ボールは当時の物を、ふだんは工場経営者である選手が手弁当で復刻。バットも同じく復刻した物だが、こちらは全米で1店だけ、フェニックスに製造しているお店があるのだとか。圧倒的な熱意の持ち主はブラッドさんだけではない。ここにいる全員が野球への愛(偏愛?)に満ち、野球の母国のディープさを伝えてくれる。
——パチッ!
冒頭の打球、僕は案の定、素手でキャッチしようとして弾いてしまった。死ぬほど痛い。だが、まだインプレー中。僕は落とした打球を拾って、内野手に返す。もちろん、その選手もグラブは持っていない。
黎明期の野球がグラブを使っていなかったことは、本を読んで知っていた。しかし、実際にやってみると、「無理!」というのが正直な気持ちである。まあ、だからこそグラブが生まれ、野球のレベル向上とともに発展していったのだろう。と同時に、ふと思ったのだ。ヴィンテージ・ベース・ボールをプレーしている選手たち、けっこう素手で上手く捕球しているのだが、そんなに痛がってないのである。ただ、彼らの手は日本人である僕の手と違い、分厚くデカい。
「もしかしたら、本当に自分が感じているよりも痛くないのかも……そういえばガリクソンもよく素手で打球を止めようとしていたもんなあ(たぶん関係ない)」
日本で爆発的に野球が普及したのは、既にグラブを使用していた時代である。もし、グラブ使用以前の野球だったら、みんな「痛い痛い」と言って、今ほど日本で野球は広まらなかったのではないか。まあ半分、冗談の思いつきなのだが、今までそんなこと考えもしなかった。何事も新たな経験は気づきを与えてくれる。
試合後、ブラッドさんにお礼を言うと「ぜひ日本でもヴィンテージ・ベース・ボールのチームを作ってくれ。それでアメリカという国と野球の歴史にも興味を持ってもらえたらうれしい。いつか必ず試合をしよう!」と熱い握手を求められた。あれからもうすぐ4年。それほど友達が多いタイプでもない僕は、まだヴィンテージ・ベース・ボールのチームを作れていない。誰か興味のある人、います?
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