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当初は“終わりが見えなくなる”とは思っていなかった

女将 はい。特に、2月の終わりから3月の初めは、お客様が全くいらっしゃらない状況が続きました。あぁ、今日もお昼と夜、どちらもゼロだわ……。じゃあ休んでもいいかな、私もここに来る必要ないのかなと思うくらいで。

 でも、まだその時は、今のように終わりが見えなくなるとは思っていなかったんです。お客様からのご連絡も、「延期します」という形だったので。「必ずまたお願いしますね」「これからみんなで日にちを調整しますね」という、そういう趣旨でのキャンセルでした。

鴎外の旧邸は当時の姿のまま残っている

――これまでリーマンショックや東日本大震災など、経営的に苦しい時もあったかと思いますが……。

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女将 3.11の時もガラガラでしたね。桜が満開の、いつもは満館となる時期にお客様が全くいないというのは、今と同じ状況でした。ただ、あのときは、少しでも被災者の方のお役に立てればと、福島の方を対象に「1泊3食付き4000円」というプランを実施したんです。お食事はお弁当のご提供ではありますが、お疲れの福島の皆さんにここの温泉に入って、ゆっくりしていただけたらと思いまして。

 でも今回は、そういうプランも立てようがないですよね。外出自粛が呼びかけられているなかで、「ぜひ来て下さい」とも言いにくいですし……。

温泉の入浴時間を短縮し、電気代を抑えたが……

――今回、キャンセルが相次いだことで、鴎外荘の中で対応策と言いますか、何か新しい動きはあったのでしょうか。

「於母影(おもかげ)の間」は、会食や両家顔合わせの席での利用が多かったという

女将 いろいろやりましたね。たとえば、温泉に入っていただける時間を15時からに変更しました。それまでは6時から10時と11時から23時の間は大浴場をあけていたんですが、それだけでも電気代がすごくかかるんです。うちは日帰り入浴もやっていますが、やはりお客様が減り、誰も入っていない時間が増えてしまって。

 あとは、宿泊予約がキャンセルになり、余ってしまったホテルの部屋を、食事会場として使っていただけるようにしました。それまで、うちは1階のレストランでみなさまご一緒に召し上がっていただくスタイルでしたが、お客様への安心・安全を考えまして、個別に個室をご用意しよう、と。