ここまで遂げてきた成長は“育成魂”にも支えられていました。育成時代はテレビ越しに1軍の試合を見て「いいな~。あそこで野球したいな~」と羨みながら、悔しさを噛み締める日々でした。育成選手と支配下選手の壁をまざまざと見せつけられてきた2年間。1年目、ファン感謝祭前に行われる日本一パレードに育成選手は出られないと知り、2時間ドームでお留守番した悔しい思い出もあります。「支配下選手に負けてたまるか」とパレードが行われている間、ウエイトトレーニングに汗を流しました。晴れて支配下登録された今でも、1軍のマウンドに立っていても、当時抱いてきた想いが消えることはありません。
千賀投手や甲斐捕手、牧原選手、二保投手らも育成出身。今ではチームを代表する選手たちですが、彼らも支配下選手と区別されてきた育成時代の話になると言葉に熱がこもります。育成での経験は、成長を支える大事な要素になっているのかもしれません。
好投のカギを握っている“雄叫び”
また、尾形投手の気持ちの強さは“雄叫び”にも表れています。投げ込む瞬間に「オリャー!」と雄叫びを上げる尾形投手。無観客の球場に響き渡る雄叫びが彼の代名詞にもなってきました。フォームのバランスやタイミングが合った時、強いボールを投げられている時に自然と声が出るのだそうです。つまり、雄叫びは調子のバロメーターなのです。
ちなみに、尾形投手はその声をマウンド上だけでなく、自分の部屋でも張り上げているそうです。寮の自室にはカラオケがあり、気持ちを込めて思い切り歌うことでストレスを発散、声を出すことがリラックスに繋がっているようです。「部屋での目標はいかにリラックスするかなので、そういう意味では(カラオケは野球に)繋がっていると思います」。オンでもオフでも“雄叫び”が尾形投手の好投のカギを握っているようです。
そして、初めての1軍昇格は思ったよりも早く巡ってきました。6月23日、初めて出場選手登録されると、その日にプロ初登板。1回を投げ、2つの三振を奪うも、押し出しを含む3四球3失点と結果を残せませんでした。そして、再び2軍へ――。
でも大丈夫です。尾形投手には“成長体験”があります。ほろ苦デビューを肥やしに、さらにパワーアップしてくれるはずです。
何事にも全力な尾形投手を取材していると「涙の数だけ強くなれるよ」と岡本真夜さんの歌声も聞こえてきそうです。アスファルトに咲く花のように、育成からの逆境を乗り越えて、強い花を咲かせてくれると信じています。次、1軍に呼ばれるときにはもっとスゴい雄叫びを聞かせてくれることでしょう。
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