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乙坂、濱口、佐野……ベイスターズの一軍マネージャー“のぶマネ”が明かす「彼らの素顔」

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/07/09
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 西﨑伸洋です。僕は元ベイスターズの選手で、現在球団のチーム運営部一軍運営グループのグループリーダー、兼任で一軍マネージャーをしています。あと、球団公式モバイルサイトで『のぶマネブログ』というのを長く書かせてもらってもいます(読んでくださっている皆様、ありがとうございます)。おかげさまで現在横浜DeNAベイスターズは2位、まだシーズン始まったばかりですがいいスタートを切れたと思っています。今年は初めてのことが多すぎて、何が正解か不正解か分からないまま仕事をしている感じです。まだチームから感染者は出ていないので、とにかくこれを続けていくことかなぁと思いながら日々業務に励んでいます。

 僕はいつも選手と一緒にいます。グラウンド以外でも、彼らと誰よりも話をしていると思う。ブログが毎日書けるのもそういうことです。「若手選手はのぶマネに叱られて育つ」みたいに言われたりしますが、楽しい時間も辛い時間も一緒に過ごすことで、僕の方が彼らにたくさんのことを教わっています。今日は普段のブログではあまり書かない、裏方である僕と選手たちのちょっと真面目なお話を書かせてもらおうと思います。

西崎さん、Zoom取材 ©文藝春秋

入団当時、特に手を焼いた選手

 今は球団の人間ですが僕は元選手なので、選手たちが今まで言えなかったことをなるべく言いやすくなるような環境づくりを心がけています。僕は今38歳ですけど、18でプロの世界に入ったときは30歳の人のことをすごくおじさんだなって思ってたんですよね。だからこそなるべく選手と距離を取らずに接して、球団と選手とのパイプ役を担えればいいかなって。

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 当たり前ですけど、プロ野球選手も一社会人。野球が他の人より少しうまいだけの、社会人です。僕もそうでしたが、高校卒業して何も分からない状態でプロになって、新幹線のチケットの買い方すらわからない、そういう子がたくさんいます。だから社会人としてのモラル、人間としてのモラルを指導するのも、僕の役目です。野球を辞めてからの方が、人生は長いですから。

 入団当時、特に手を焼いたというか、個性が強かったのが乙坂(智)選手でした。ニコ(乙坂)には僕らとても勉強させられました。彼はすごく自分を持ってる。指示されたり上から物を言われたりするとすぐ表情に出て、よく言い返してきました。今はニコも大人になって、ちゃんと目を見て話して、納得いかない点については話し合えるようになりましたが、最初の頃は衝突が多かった。

 聞く耳を持たない限り人間は変われませんし、自分の意見ばっかりだと孤立してしまう。チームでやっている限りはチームの輪の中に入ってないといけない。その辺りをニコとは根気強く話しましたし、時々は筒香(嘉智)に助けてもらいました。筒香は乙坂の高校の先輩なので、僕らが言うと「球団の人間に言われてる」と素直に聞いてもらえないことを、「選手に言われた方が響くはず」と筒香にお願いしました。

乙坂智 ©文藝春秋

ベイスターズは選手で作り上げるチーム

 僕が選手を叱っている姿がテレビに抜かれて、ファンの間で話題になってしまったこともありました。あれは濵口(遥大)がルーキーの時。ジャイアンツ戦、試合が終わって、僕ら裏方がドリンクのゴミを片付けている時です。濵口はその日先発で、負けてしまって、ベンチに座ってペットボトルを持っててくれたんですけど、持ちきれないボトルが足元にあったんですね。それを彼が蹴飛ばしてたんです。ドームってベンチのすぐ隣にカメラがあって、ちょうどそのレンズがベンチに向いていたので、ちょっとそこへのアピールもあったのかもしれない。悔しがる姿っていう。だけど「見られる立場」「憧れられる立場」として、それはやっちゃいけないこと。僕、それでついその場で叱ってしまったんです。「学生の時とプロは違う、今これをやったらお前は『あいつ何やってんだ』としか思われないぞ」「こんなところで損をするな」と。百歩譲って裏で悔しがるならまだしも、全国ネットのテレビの前でああいうことをやるのは完璧にマイナスでしかない。

濵口遥大 ©文藝春秋

 だけどそれは僕も同じなんです。あそこで完全に肩を揺らして、怒ってる僕の姿もカメラに映っていたわけですから。僕のミスなので、後で濵口を呼んで謝りました。注意するなら裏に連れて行くべきだった。あの後、あまり良くなかった結果の時でも、裏でちゃんとペットボトルを捨ててるハマちゃんを見て、ちょっとホッとしたのを覚えています。

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