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ライオンズ×プリンスホテルのリモート応援で「観戦体験」への理解を深めてきた件

文春野球コラム ペナントレース2020

野球のための「異世界」作りでいつも以上の楽しみを

 夢に見たような「Zoomでつながる観戦体験」はそこにはありませんでした。

 だからと言って、この観戦がつながりを欠いた寂しくつまらないものだったかというと決してそうではありません。

 互いに会話をすることだけが「つながる」ではないのです。声は聞こえなくても画面の向こうには確かにライオンズを応援する仲間がいて、ホワイトボードに書き込みをしています。MCの呼び掛けにチャット機能で反応し、10点差をつけられたときには不思議と画面の動きさえ鎮まりました。それは球場にいても同じこと。居並ぶのは会話をするわけでもない他人同士ですが、同じ気持ちでそこにいると感じること、それを強く実感できることが大切なのです。

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「感じる」ことができれば、それは「現実」になる。

 まさにそれこそが観戦体験と自宅でのテレビ観戦との差です。率直に言って、目で見ることで得られる情報はテレビのほうが上です。もちろん球場でなら画面に映らないものも見ることができますが、人間の目はそんなに優秀ではありません。遠くは見られませんし、スロー再生やリプレイもできません。耳だって実況や解説の助けがあるぶんテレビ観戦のほうが多くの情報をキャッチできます。家でテレビを見ていたほうが試合のことはよくわかります。

 ただ、家ではテレビ画面以外のあらゆる部分がいつもと同じ日常を主張してきます。いつもと同じイス、いつもと同じテーブル、自分のコップに自炊のご飯。部屋の匂いや踏みしめる床の感触、暑いとか寒いとかの皮膚感覚。全身で感じる情報に変化がないので「家」にいる気分が拭えない。そこであえて場所を変え、服を着替え、食べるもの・飲むものを変え、自分の道具はなるべく使わず、スマホさえZoomに占有させることでLINEやTwitterなどの日常のつながりを封じてみる。

 いつもの家ではない「異世界」へと踏み出すことで、全身で感じる情報は違ったものになりますし、もしもそれが野球一色に統一された情報であれば、野球観戦であるかのように錯覚することさえ可能です。スタジアムに入場したときの「野球観戦に来たなー!」と思うあの感覚は、まさに「異世界」に到着したときのそれ。目の前に広がる野球でしか見ない不思議な形の地面と、野球でしか聞かない音(カキーンとか)や言葉(かっせーかっせーとか)、野球以外ではまったく接点のない人々。全身を通じて外国にでも行ったかのような錯覚をさせてくれるのがスタジアムでの観戦体験です。

 だから、「異世界」の演出を徹底すれば、仮にそこがスタジアムでなくとも今まで以上の気分になれる。ホテルに入ったとき、客室のドアを開けたとき、Zoomにつないだとき、自分の周囲が異世界へと変わっていくごとに高まっていく「野球観戦に来た」ときのような実感をライオンズ一色の客室で僕は覚えました。実際にやったことは「ホテルでテレビを見る」であったとしても、受け取る異世界観は格段に違うものでした。まさしく「野球観戦」でした。

 これから先しばらくつづく感染症を警戒しながら暮らす状況を前に、本来ならチケット代に充てるはずだったお金を「異世界」づくりに充てることで、現地には及ばないまでもいつも以上の楽しみを感じていけるはず。幸いにして各球団は球場の食事をテイクアウトする仕組みや、自分の分身となる応援ボードや写真を球場に置く仕組み、なかには声やアクションを届ける仕組みも用意してくれています。どれも現地観戦が叶うときなら行けば済むことばかりですが、新しい状況に合わせて「異世界」を作る要素を小分けに売ってくれています。こうしたチカラを積極的に活用すれば「異世界」づくりはさらに捗ります。

 自分自身がいつ「観客」になれるのかはまだわかりませんが、野球のための「異世界」を作り、そこに没入して観戦をすることで、家以上現地未満の観戦体験を楽しんでいきたいもの。それが上手にできるようになったら、これから10年20年と長く使える技術となるでしょう。ご家庭でレストランみたいな食事を作れる人のように、テレビ観戦でもすっごい気分を出せる観戦体験の達人となってこの先の野球人生を充実させていけそうです……!

とりあえず川越にはサッポロ生ビール黒ラベルのライオンズ応援缶が大量に余っていたので、仕込ませていただきました!

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