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プロ野球、5000人の有観客試合 ゆとりとにぎわいのバランスが“ちょうどいい”件

文春野球コラム ペナントレース2020

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まるで心地よいカフェのような空間

 いざ入場後。座席は前後1列と左右2席があいており、十分にゆとりのある距離感が保たれています。トイレだってできるならほかの人と「個室ひとつ以上」「小便器ひとつ以上」の隙間をあけて使いたい派としては、ようやくあるべき状況が始まったという気分。ずっとガマンしていただけで「隣に知らない他人」がいるというのは猛烈なストレスでした。ちょこちょこ太ももを当てられるのもイヤでしたし、「あなたが使っているドリンクホルダーは本来僕の席のヤツですよね?」という苛立ちもありました。

「隣の人が清潔感のある穏やかな人でありますように……」という切なる願いを込める隣席ガチャ(※お互い様でしょうが)。列のド真ん中に入ってしまったときの憂鬱と、トイレに行く回数を減らすためにビールを控えるような何しにきたんだかという本末転倒の行動抑制。そういったものがすべて霧散し、「うわー!」「いい!」「これすごくいい!」と興奮するほど。ただ前後左右に誰もいない、それだけのことで。

前後左右をあけた座席配置。前の席にいるアフロに悩まされる心配はもはやない! そして、前の前の席のアフロとの新たな戦いが始まる!

 前後左右のストレスがないことで試合にも集中できますし、食事やトイレもスムーズにこなすことができ、快適さはうなぎのぼり。唯一心配していた「寂しいのではないか」という懸念も、思った以上に5000人でも「にぎわい」は感じられます。当然です。ここに集まっているのは、世間的には決して大賛成を受けている行動ではないものに、リスクを冒して集っている「どうしても来たかった5000人」なのです。少数ですが精鋭です。楽しむことへの意気込みが違う。

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 無用な雑音がないことで拍手や歓声はむしろよく響いてさえいます。応援の声も通常音量で抑制されながらほどよく聞こえてきますし、逆に場内アナウンスや「球音」などの本当に重要な音はしっかりと聞き取れます。3万人のざわつきのなかだとタイミングによってはよく聞き取れないアナウンスもあったりするものですが、5000人ではそういったことがありません。「聞きたい」ものに全員で耳を澄ます、「見たい」ものに全員で注目する、そんな一体感がありました。

 それはまるで心地よいカフェのような空間でした。カフェが備える、ゆったりと落ち着ける空間、うるさくない程度に流れる音楽、大事な会話や勉強に集中できる環境が、ついに野球場にも訪れたのです。心地よく落ち着いた環境によって、試合中にひたすら大声をあげつづける埼玉西武ライオンズ山田遥楓選手が単独ドームライブでも開催しているみたいに目立っていたことだけ気になりましたが、それ以外は本当に素晴らしかった。快適でした。

 そして、それは野球だけの話ではありません。後日、別口で出掛けた大相撲でも心地よさはまったく同様でした。ゆったりとした環境と、ほどよい「にぎわい」のなかで観戦に集中することができました。カフェでは勉強や仕事がはかどるように、「あえてゆったりさせてある心地よい空間」のなかでは観戦もはかどるのだなと実感しました。長いスポーツ観戦歴のなかでも、際だって印象に残る「素晴らしい体験」でした、「有観客試合」というのは。

大相撲ではこの空間がひとりぶん。なんというゆったりと寛げるスペース!(※なお、通常は1.3メートル×1.3メートルのマスに4人詰め込まれる地獄です)

 この観戦体験をぜひもっと多くの方に経験していただきたいものです。球団側は「できるだけ早くもっと多くのお客を入れたい」と思っているでしょうが、今の「有観客試合」のバランスが実はとても素晴らしいものであるということを多くの方が経験すれば、今後の日本のスポーツ観戦体験というのも変わってくるはずです。

 金の計算だけをすれば「詰め込み」に走りがちですが、「有観客試合」の快適さには単価が上がってもよいと納得できるだけの価値がありました。実体験として実感しました。いまだ感染拡大がつづくなかでの「一時的な措置」としての人数を絞っての開催は、この素晴らしい体験を安価にお試しできるチャンスです。リスクの観点で言っても、ワクチンや特効薬ができない限り、今よりも「いいタイミング」はありません。今より観客が少ないパターンは無観客ということですし、「上限50%」など今より多いパターンはリスクも同時に高まるということです。今が観戦に「ちょうどいい」機会。ぜひ、「有観客試合」という稀有なる機会をより多くの方に体験していただきたいものです!

これぐらいが「ちょうどいい」!

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