姉の提案から、当時56歳の「ササポン」ハウスへ
元アイドルの印篭をちらつかせて仕事をゲットし、夜は合コン相手のお金で西麻布の高級レストランへ。一転、週末は6畳一間の安アパートで布団をかぶってひきこもる。そんなアンバランスな暮らしのストレスから、体重は20kgも増えた。理想に一歩でも近づくため、15歳から自分にムチ打ち続けた身体は遂にバーストを起こし、会社を辞めることになる。
そんな大木さんを心配した実姉から提案されたのが、かつて彼女も部屋を借りたことのある「ササポン」とのシェアハウスだった。家賃の支払いにも困っていた大木さんはプライドをかなぐり捨て、当時56歳のおっさんと同居生活を開始。するとそこが意外にも、傷ついた心を癒やすシェルターとなる。
「彼は小日向文世さん似で、どこか無機質な印象があります。だからなのか、ササポンが入った後のお風呂にも全然入れます。コロナの自粛期間ももちろん一緒にいたので、近さでいうと家族レベルですよね。
住んでいるのはササポンの持ち家で、彼は私の姉含め、これまでも色んな人に部屋を貸してきたみたいです。赤の他人のおじさんとシェアハウスしていることを説明するとき必ず、“恋愛関係はないんだけど”と前置きしなくちゃいけないのが面倒なんですけどね。
ただこれからの時代、恋人とか友だちとかっていう既存のラベリングができない、多様な関係性があってもいいよね、というのは発見でした。価値観も生きる世界も違う人と暮らすことで、つい陥りがちな『~であらねばならない』から外れることができるんです。
そういえばこの前、ササポンが軽井沢の別荘に行ってしまって久しぶりに一人になったんですけど、まあ寂しくて寂しくて。帰ってくるなり『寂しかったです』と言ったら、ササポンは『この前部屋を大掃除したから部屋が広く感じたんじゃない?』って。言動を恋愛の文脈で捉えない相手との同居ってなんて楽なんだ!! と改めて感動してしまいました」
ササポンは大木さんのことを、「遠い親戚の、大切なお嬢さんを預かっているような感じ」だという。必要以上に立ち入らず、立ち入られない。けれど、ひとりではない安心感がある。そんな「ササポンハウス」が大木さんにとって最大の回復力となり、執筆業に専念することを決意する。
そして元アイドルたちの「その後」を追ったノンフィクション『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)を上梓するに至った。