涙流れるところにドラマがある。これは、心が折れかけた後輩と親心が芽生えた先輩との絆の物語である。
主人公は、高卒2年目の広島・羽月隆太郎内野手。2018年にドラフト7位で入団した。身長167cmの小兵で、DeNA柴田と並ぶセ・リーグ野手最小。誰よりも大きな声を出すことがモットーで、先輩からのイジリにも何とか爪痕を残そうとするタイプである。努力と根性がよく似合う。
「なに落ち込んでるねん! とりあえずメシ行くぞ」
俊足巧打を売りとし、1年目の昨季はウエスタン・リーグで打率.300を残した。長打は二塁打5本のみながら、バットコントロールと自慢の俊足で非力さを補った。そして、手応えをつかんだまま、意気揚々と初の1軍となる日南秋季キャンプに向かった。
ここで見事に壁にぶつかった。連日の厳しい練習だけでなく、東出打撃コーチらが求めるレベルも高かった。2軍でかすかに抱いていた自信は、あっさりと打ち砕かれた。
練習後、宿舎の食事場に戻ると涙があふれてきた。悔しさと情けなさが入り交じっていた。間違いなく2軍で誰よりも叱られてきた。全てを跳ね返してきたはずの心は、折れる寸前まで来ていた。
悔し涙は、一人でこっそりと流すはずだった。そこに、偶然にも野間と西川が通りかかった。「なに落ち込んでるねん! とりあえずメシ行くぞ」。関西弁の先輩2人は優しかった。目を赤くする後輩を思い、気分転換にと外食に誘い出してくれた。
涙が乾けば、特訓である。翌日の練習後から、野間、西川がコーチ役となっての打撃練習が始まった。素振りのチェックだけではない。ときには映像撮影も手伝ってもらい、反復練習を繰り返した。「お兄ちゃんみたいで本当に優しい先輩」。先輩への恩返しが2年目の目標に加わった。