2021年始動――。4連覇は過去のこととして新たな1年に挑むホークス。短いオフを終え、今季も春季キャンプが始まりました。

 個人的に注目している選手は、2014年ドラフト指名組の3選手です。昨季、初の開幕スタメンに始まり日本シリーズMVPと大活躍だった栗原陵矢選手は、レギュラー定着へと大事な年になることでしょう。プロ初勝利を含む4勝を挙げた笠谷俊介投手は今季、先発ローテーション入りを目指しています。シーズン自己最多25試合に登板し、日本シリーズ初登板でも力強い投球を見せた松本裕樹投手も、更なる飛躍に期待がかかります。オフに腰の手術を受けましたが、結婚も発表し、より強い気持ちで挑んでいるはずです。

 早いもので、彼らも今季が高卒7年目になります。私は彼らが2年目の年からファーム取材をしていますが、この代は本当に仲が良かったです。育成含めて13人。3選手を含め、“つぼみの時間”が長かった世代でもありましたが、互いに励ましあいながら奮闘していた姿が印象的でした。

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2014年ドラフト同期の高卒メンバーたち ©古澤勝吾氏提供

 ※2014年ドラフト指名選手は、ドラフト1位・松本裕樹、2位・栗原陵矢、3位・古澤勝吾、4位・笠谷俊介、5位・島袋洋奨/育成ドラフト1位・幸山一大、2位・齋藤誠哉、3位・山下亜文、4位・堀内汰門、5位・柿木映二、6位・金子将太、7位・河野大樹、8位・中村恵吾(写真は高卒同期10選手)

 栗原選手、笠谷投手、松本投手以外のメンバーは既にホークスのユニフォームを脱ぎ、それぞれ次のステージへと進んでいますが、今でも連絡を取り合うメンバーも多いといいます。現在の同期の活躍をどんな思いで見ているのか、そして今何をしているのか、彼らへのエールを込めて取材してみました。

「陵矢がやったったら俺もやらなあかんなって」

 2014年ドラフト3位入団の古澤勝吾さんは、昨オフに戦力外通告を受けて現役を引退。例年2月はキャンプで過酷な日々を過ごしていた分、「体力が有り余ってます(笑)」と毎日走ったり懸垂したりしているそうです。6年間で1軍出場は無かったけれど、どんな時もくじけず前向きな姿は同期達の励みになっていました。現在は、球団のスポーツ振興部で野球教室などの活動をしています。グラウンドを離れたことで視野も広がり、様々なことに興味を持って勉強の日々。「今まで自分のために野球をしてきたので、今年は人のために。いろんな人が支えてくれたことを返せるようにしていきたい」とこれからのことにも目を輝かせています。

 昨季は自身も2軍で着実な成果を見せていましたが、一方で同期の栗原選手は1軍で大ブレイク。正直、どんな思いだったのか聞いてみると、「陵矢がやったったら俺もやらなあかんなって」と笑顔。嬉しいとか悔しいとかそういう感情ではなかったのは「ポジションが違うってのもあるけど、仲間と思えるから。やっぱ同期って特別なんですよ」と古澤さん。昨季中も頻繁に栗原選手と連絡を取り合っていたと言います。「どう待ってどう打ったのかとか、打席での考え方や根拠を聞いてましたね。陵矢も1軍行って周りのレベルも上がって、考え方とかもレベルアップしてるなと思いました」と同期の話にも耳を傾け、自身の糧にしていたそうです。

「プロ野球って一瞬の喜びの為に何千、何百時間も練習するんですよ。だから他のステージで頑張れないわけがないんです。頑張り方を知ってるから」

 どんな道に進んでも古澤さんは古澤さんらしく突き進むのでしょう。彼の話に、私自身も刺激を受けました。

 古澤さんと同じく昨季限りでホークスのユニフォームを脱いだ堀内汰門さんは、社会人野球の道へ進みました。名門・JFE西日本で野球と社業に取り組む新しい生活を始めています。

 ホークスに育成ドラフト4位で入団した堀内さんは、高卒の同期捕手で高校ジャパンの主将でもあった栗原選手のことを「めっちゃ意識してた」と振り返ります。ファームで活躍する姿、昨季の1軍での飛躍を見て、「自分じゃ無理なのかな」と思ってしまうこともあったと言います。それでも、「どうやったら陵矢を超せるのか」を常に考えてやってきたことが自身の成長にも繋がりました。なかなかチャンスに恵まれず、3軍暮らしも長いプロ生活でしたが、黙々と努力を積み重ねる選手でした。捕手陣に怪我人が相次いだ2018年にチャンスを掴み、晴れて支配下登録を勝ち取りました。堀内さんの健気な姿が報われた時、「野球の神様はいるんだ」と私の取材経験の中でも深い感動を覚えた忘れられない出来事でした。

 そんなコツコツタイプの堀内さんは、現在も「1日1000スイング」と野球に真摯に向き合っています。捕手としてはホークスで受けてきた投手陣の球をイメージしながら新しいチームメイト達の球を受け、伝えられる経験は何でも伝えているそうです。「ホークスではどうでしたか?」など熱心に質問してくれる若手選手もいるそうで、JFE西日本の投手陣にとっても頼もしい存在となっていました。「僕も(NPBに)戻れたら一番ですけど、まずは日本選手権と都市対抗! キャッチャーとしてベストナインを取ります! 会社の一員になって、部署の皆さんにも応援してもらって、会社の期待に応えたいという気持ちがすごく芽生えました」と堀内さん。みんなが応援したくなるような堀内さんだから、ステージを移しても彼の姿は他の同期たちにとって励みになるはずです。