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もう田中広輔は“必要ない”のか? ケビン・クロンは“ハズレ外国人”なのか? そんな疑問を考察してみる

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/05/11
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現時点でエルドレッド二世と呼ぶことはできないが……

 もうひとりのキーマン、ケビン・クロン。マイナー通算151本塁打の大砲で、2019年は3Aで82試合に出場、打率3割3分1厘、リーグ1位となる38本塁打を記録。エルドレッド二世としての期待を一身に受け、鳴り物入りでカープ入りした。しかし、現時点でその期待は裏切られている。日本のストライクゾーンやピッチャーの配球に苦しみ、みんなが思い描いた結果を残すには至っていない。普通に考えれば「ハズレ外国人」の気配を感じるところなのだが、クロンに関しては少し違うと私は思っている。現時点でエルドレッド二世と呼ぶことはできないが、その気配、その匂いは充分にすると思うのだ。

 なにより彼は「勤勉」である。まず、自分がエルドレッド二世として期待されていることを知り、そのエルドレッドと電話で対談。成績以上にチームメイトに愛され、ファンに愛されていたことに感銘を受け、それを目指すことを誓った。さらにカープの主砲である誠也。メジャー経験のある外国人選手は日本の野球を下に見て来日することがあるが、クロンは入団直後から誠也のバッティング技術に敬意を表し、キャンプインすると、いつも誠也のそばでコミュニケーションを取っていた。そして通訳を介して誠也の打撃論を聞き「リーグでトップの座にいる選手が自分のチームにいる。これ以上ない勉強するチャンス。コーチだと思って見ている」と心酔。キャンプ中、クロンと誠也がコミュニケーションを取っている姿、そばにいる姿を見た人は少なくないはずだ。

 こういう選手は、伸びる。それこそ、エルドレッド。彼も最初は現在のクロンのような選手だった。いや、三振した時のリアクション、本人にとって不服なストライク判定。そういう時に感情をあらわにするエルドレッドの姿を思い起こすと、精神面ではクロンよりもエルドレッドの方が不安定だった。しかし彼は、野村元監督と出会い、時間をかけて日本野球にアジャストしたことで、結果的には「カープ史上ナンバーワンの助っ人」と言われるまでになった。

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 ベンチでの姿を見ていても、クロンは積極的にチームメイトと意思の疎通をはかっているし、とにかく笑顔でいることが多い。見逃し三振などの場面でも、悔しさを茶目っ気で表現するかのごとく、その場でピョンと跳ねたりしている。そう。クロンは、どこか「愛らしい」のだ。大事な場面でエラーをしても、その後に打つと最高の笑みを浮かべ、日本人なら「さっきのエラーを帳消しにしただけ」と気を引き締める場面でもドヤ顔を見せる。

 4月25日の巨人戦では、打った瞬間「しまった」と苦笑いして首を傾げた打球がスタンドイン。今シーズン2号となったのだが、ダイヤモンドを回ってベンチに戻ったあとには「どうだ!」と言わんばかりに親指を突き上げて満面の笑みを浮かべていた。最初はそういう姿を見て「大丈夫かコイツは」と思うこともあったが、おそらくクロンはそういう人間なのだ。どこか抜けていて、どこか天然で憎めない。ベタな言い方をするなら「気は優しくて力持ち」。満足な結果こそ出ていないが、そのパワーは海の向こうで実証済みである。そういう意味で、クロンはかつてのエルドレッドのように長い目で見てほしい選手だし、成功してほしい選手。同時に、広輔と共に「やはりカープにはお前が必要だ」と思われてほしい選手。田中広輔とケビン・クロン。このふたりが存在感を増し、チームを上位に、いや、いちばん上まで引き上げてくれることを私は切に願う。いや、願いまくる。

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