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追悼・大島康徳さん あなたにカンカンに怒られた、忘れられない名護の朝

文春野球コラム ペナントレース2021

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 金子誠の場合はもっとはっきりしている。大島さんは「サイズが大型なのにバッティングが小さい」金子誠に不満だった。長打が打てるように打撃改造しようとする。ところが金子誠はチームダントツに自分を曲げない男だった。何を言われようとスタイルを変えない。2軍に落とされ干されようと顔色ひとつ変えない。これはね、この時期いちばんの見ものだった。で、どうなったかというと金子誠が勝つんだよ。そのまま、自分のスタイルのまま使わざるを得ないとこまで持ってく。

 3年目(2002年)、「2番金子、3番小笠原」が多かったんだけど、球場で見るのが楽しかった。2人で野球やってるんだ。2人でもつながりってつくれるんだ、2人でも打線成立するんだなと感心した。そして「圧」って人をジャンプアップさせるなぁと感じ入った。誰が何と言おうと、2人を「プロ中のプロ」に磨き上げたのは大島さんのひたむきさだと思う。熱量は人を育てる。野球は深い。

 ※後に大リーグ解説者になられてからの話。イチローが調子を崩したとき、たまたま現地にいてアドバイスしようとされたらしい。と、イチローが「大島さん、僕を誰だと思ってるんですか。イチローですよ」と制したという。大島さんはどこまでも大島さんだ。まっすぐ。「ホントにそうでしょ。誰だと思ってるんですか、イチローですよ。その通りなんだよなぁ。まいったよ」。そんなこと取材者に言います?

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高濱は打った。「代打・大島康徳」が1球に賭けたように

 話を旭川の西武10回戦に戻そう。この試合、ファイターズには珍しく清水優心1号、王柏融6号(2ラン)とホームラン攻勢で試合を優位に進める。が、逃げ切れなかった。リリーフがつかまって3対3の同点だ。9回裏、連続無失点試合のプロ野球記録更新中の平良海馬が出てきた。フツーに考えればお手上げだ。雨に打たれながらファイターズはまた勝ちを逃すのか。いつまでこんな試合続けるんだ。

 先頭の郡拓也が死球で出塁。が、清水、淺間大基は仕留められて2死1塁。雨で制球は乱してるが、さすが平良だった。球威が違う。続く高濱祐仁も1ボール2ストライクとたちまち追い込まれる。

 大島さん、あなたのことを考えたんだ。弱気になったり諦めるのが許せない人だった。

「(前略)がんで亡くなられた方に必ずと言っていいほど使われる表現があります。『〇〇年から闘病を続けてきましたが、力尽きました』
僕はこの表現はおかしいと思います。『力尽きた』のではないのです。
『闘病』という言葉が『力尽きる』につながるならば、それは違います。
病気に負けた人生ではないのです。
頑張ったのです。
頑張って生きたのです。『〇〇年の人生を頑張って生き抜いた』。新聞にはそう書いてほしいと思います」(東京新聞「この道」より)

 高濱は打った。「代打・大島康徳」が1球に賭けたように。ただ1球、ただひとつの命。打球はセンターの頭上を越してフェンスを直撃だ。1塁走者淺間は長駆ホームイン。平良の日本記録を39で止めた。サヨナラだ。サヨナラ勝ち。大島さんサヨナラ。

 大島さんサヨナラ。あなたと会えたことは一生の宝物だ。後輩を見守ってください。どうかこのなかから「プロ中のプロ」が飛び出しますように。

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