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西武・メヒア、惜しまれつつ退団…彼の母国ベネズエラが直面する問題

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/08/03
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国民の6人に1人が難民化

「よく行ってきたな。ベネズエラ人は優しかっただろ?」

 メヒアに取材へ行った報告をすると、微笑みとともにそう返ってきた。野球という“共通言語”があることで、国籍の違う者同士がわかり合える。外国に行って現地人と話すたびにそう感じ、次はどこの国へ行こうかと思い巡らせてきた。コロナ禍が落ち着いたら、次はメキシコに行くつもりだ。

 日本にやって来てくれる外国人選手たちには、感謝の言葉しかない。各球団の戦力になることはもちろん、異国から新たな価値観を持ち込み、チームや選手、ファンが新たな気づきを得るきっかけになってくれる。

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 多くの人々を魅了するスポーツは、各々にとって世界を広げるツールになる。自分の応援するチームに外国人選手がやってきたら、せっかくなのでその国の文化や歴史などにも目を向けてみてはいかがだろうか。

 メヒアの出身地であるベネズエラが、長らく国難にあるというニュースを聞いたことがある人は少なくないだろう。筆者が訪れてから5年が経つが、政治、経済ともに状況は悪化するばかりだ。

 今年出版された坂口安紀『ベネズエラ――溶解する民主主義、破綻する経済』によると、2014年以降、同国の実質経済成長率はマイナスが続いている。国内総生産(GDP)は2017年から2020年のわずか3年間で半減した。2018年のインフレ率は13万%。前大統領のウゴ・チャベス、現大統領のニコラス・マドゥロ政権下でデノミネーション(通貨切り下げ)が2度行われ、合計8桁の「0」が切り下げられた。1億円が1円になるようなハイパーインフレーションだ。

 食料からトイレットペーパーまで、物不足は深刻だ。筆者が訪れた当時、水より低価格のガソリンを大量に仕入れ、隣国コロンビアに売りにいく人もいた。そこから生活環境はさらに悪化し、髪の毛を売りにいく女性もいるという。飢餓に苦しみ、街中でゴミを漁る人も決して珍しくない。貧困率が9割を超えるなど先行きがまるで見通せないなか、2020年時点で510万人のベネズエラ人が国外に脱出した。国民の6人に1人が難民化した計算になる。

1人の選手を通じ、得られるスポーツの価値

 日本で暮らしているとまるで想像できない状況だが、今、世界で進行中の出来事だ。

 なぜ、20年前まで南米の先進国だったベネズエラが“崩壊状態”に陥ったのか。詳しく知りたい人は、前述した書籍を参照してほしい。政治が機能不全に陥った際の行く末は、筆者にはとても他人事には思えなかった。

 日本にとってベネズエラは距離的にも遠く、決して馴染み深い国ではない。しかし、1人の選手がやって来ることで、その距離はグッと縮まる。スポーツ最大の魅力は試合の中にあるが、もっと周辺まで光が当たるようになると、スポーツの持つ価値はさらに大きくなるのではないだろうか。

「ライオンズファンの皆さん、2014年から長きにわたり熱いご声援をいただき本当にありがとうございました。皆さまには私の想いをご理解いただければ幸いです。家族を優先しなければならないということをお詫び申しあげます。これからもライオンズをずっとずっと応援し続けてください、私も異国の地から応援しています」

 球団を通じ、メヒアが最後のメッセージをくれたのは家族と一緒に暮らす自宅からだった。母国ベネズエラではなく、生活拠点を構えるのはアメリカだ。

 残念ながらベネズエラの現状に対し、筆者ができることはほとんどない。それでも地球の裏側で起きている事実を知ることには、大きな意味があると思う。

 メヒアとの出会いはベネズエラへの興味を深めるきっかけとなり、そこから多くを考えた。改めて、感謝の言葉を記したい。

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