何度経験してもトレードに対してスマートになれない。毎度毎度バタバタだ。

 仕方のないことだが、まず、突然の報せなのが良くない。発表の次の日には今までこちら側だった選手が違うユニフォームを着て打席にいたりして目も心も追い付かない。別れの寂しさと同時に迎える準備もあることがほとんどで、新しい情報を入手し伝えるのはなかなか大変な作業でもある。毎回同じ繰り返しになることがわかっているので、トレードと聞くと私は2、3日は疲労の連続となることを覚悟する。

 8月12日、ファイターズとライオンズ、2対2のトレードが成立。なんとリーグ戦再開前日の出来事、まだちょっとバタバタ中。

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公文克彦

 異例のオリンピックブレイク、約1か月の公式戦中断期間を私は心地よく過ごした。「最下位」という重みからひとときでも解放されたのが大きかったかもしれない。リーグ成績に関係なくセ・リーグチームと行われたエキシビションマッチも内容のいい試合が多く後半戦への期待が膨らんだ。

 ファイターズの選手が二人選出された侍ジャパンは金メダル、近藤選手と伊藤投手の姿が誇らしかった。監督、コーチ陣にファイターズに縁のある方が複数いたのもアクセントだった。

 さ、もう少しでリーグ戦が始まる、そろそろちょっと伸びでもしようか……と両腕をあげた再開前々日、中田翔選手の無期限謹慎がチームから発表された、ファン激しく動揺。そして、翌日、複数トレードの発表、ファン引き続き激しく動揺。出来るなら穏やかな1か月の間にちょっと散らばしてほしかった……。トレードの報せには公文克彦投手と平沼翔太選手の名前があった。

トレードという波を上手く乗りこなした公文投手

「声、小さいよ」

 私がデータ以外で最初に手に入れた公文投手の情報はこれだ。2016年オフのこと。入手先はラジオの仕事で解説者としてお世話になっていた二岡智宏さん。公文投手はジャイアンツからのトレードだったので、当時コーチをされていた二岡さんに思い切って聞いてみたのだ。「公文投手ってどんなタイプの選手ですか?」と。その答えが「声、小さいよ」。私が求めていた情報とはちょっと違ったけれど、後で思えばそれは公文投手の性格を表すにはとても的確だったように思う。

 公文投手は移籍初年度から中継ぎとして多くのマウンドに立ち、自身初勝利もあげた。2017年、その時のお立ち台の公文投手の声は教えられた通りに小さく、そしてなんとも優しかった。

 声を聞くその前にも大事なシーンがあった。公文投手は緊張のあまり自分に向けられたインタビュアーの持つマイクをそっと両手で包みこんだのだ。そのまま答える公文投手、その姿は我々ファンにとっては宝物のようで何度思い出しても微笑ましい。

 その後182試合無敗という大記録を達成、マウンドでの凛々しい表情と普段の柔らかい雰囲気とのギャップも魅力だった。

 ちょうど、岡大海選手がマリーンズにトレードになったタイミングで公文投手と話をしたことがある。「岡ちゃんにはトレードは大チャンスと話しました。ただトレードって突然言われるのでびっくりしますけど」と笑っていた。

 トレードという波を上手く乗りこなした公文投手、この経験は2度目も生きるに違いない。そしてきっと今回一緒にライオンズに移籍した若い平沼選手の不安や戸惑いも拭い去ってくれたと思う。