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ヤクルトに3位指名されたあの瞬間…米野智人が明かす、22年前の本音

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/10/05
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「絶対に指名される」という確信

 高校時代の僕が特に気になったのは、相手チームのキャッチャーだった。自分と比べてどうだろうかと、客観的に比較しながら見ていた。

 キャッチャーを評価する際、一番わかりやすいポイントは肩の強さだ。全国の強豪校と試合ができたおかげで、自分の肩の強さは全国トップレベルにあると分かった。客観的にそう思えると、その後も自信を持ってプレーすることができた。

 打撃は自分より格段にいいバッターがたくさんいたが、自分より肩が強い高校生は見当たらない。高校通算27本塁打という、そこそこの打撃と強肩が特徴で、高校野球雑誌にも「プロ注目」として取り上げてもらった。試合で球場に行けば、スカウトの方が頻繁に来てくださった。

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 高校2年の時に「もしかしたらプロに行けるかも」と思っていた感触や自信は、3年生になって「絶対に行ける」という確信に変わった(松坂大輔さんの真似ではございません)。

 そういう状況だったから、ドラフト会議当日を迎えると、「絶対に指名される」と確信していた。指名漏れするかもしれないという不安は、全くなかった。正直な心境を明かすと、どの球団に何位で指名されるのかというドキドキ、ワクワクだった(今になって客観的に振り返ると、調子に乗っていますね……)。

 当時、ドラフト会議で司会を務めていたのがパンチョ伊東さんだった。独特の声と調子で、多くの名前を読み上げた。

「第3回選択希望選手、ヤクルト、米野智人、捕手、17歳、北照高校」

 おぉ! ヤクルト!! 僕の名前が読み上げられると、一瞬、高校の会場が喜びと安堵に包まれた。

 偽りない胸の内を明かすと、僕は1位か2位で指名されると思っていた(また調子に乗っています……)。結果的に3位で指名してもらい、すぐにこんなことを考えた。

「ヤクルトか。あの古田敦也さんと一緒に野球ができるのか! ……ていうか、しばらくは1軍で試合出れないじゃん!」

 秋から冬、春になり、高校を卒業し、自信と希望に満ち溢れて入ったプロの世界。高校野球とはレベルが格段に違い、厳しい世界に足を踏み入れたんだなと、少し伸びた鼻をすぐに折られた。それでもヤクルトに始まり、西武、日本ハムと3球団を渡り歩き、17年間のプロ野球生活を送ることができた。

 正直、もっといい選手になれると自分では思い描いていた。だから後悔はありながらも、野球を職業にするという、とても貴重な経験をさせてもらった。

なぜ「運命の日」と言われるのか

 ドラフト会議が「運命の日」と言われる理由は、さまざまあると思う。プロ野球を目指す若者にとって、いろんなドラマと運命が交差する、特別な日だ。

 スワローズの大先輩、古田敦也さんは立命館大学の4年時、「ドラフト上位で指名される」と報じられ、会見用のひな壇まで設けられたが、どの球団からも声はかからなかった。当時、その理由として「メガネをしたキャッチャーは大成しない」と言われた。古田さんはこの際の屈辱が自身の反骨心に火をつけ、意地でもプロで活躍してやるという強い気持ちにつながったとおっしゃっている。

 もしかすると古田さんが大卒でヤクルトではなく他球団に入団していたら、1992年の歴史的な西武ライオンズvsヤクルトスワローズの日本シリーズは実現されなかったかもしれない。ということは、米野少年はその試合をテレビで観戦していなくて、プロ野球選手を目指していなかったかもしれない。改めてそう振り返ると、やはりドラフトは運命的な1日だ。

 今年は10月11日に開催される。僕自身は22年前のドラフト会議を思い出して、もう一度、あの時のようなドキドキとワクワクを感じたい。

 プロ野球の世界を離れて5年が経つけれど、草野球の12球団のトップリーグを作ってドラフト会議をやったら面白そうだな!

 なんて、そんな妄想をしている40歳の米野少年が、高校時代と同じように夢を見ています。

 まもなく迎える今年のドラフト会議。一人でも多くの選手が、吉報を受け取れるように願っています。

メットライフドームで“裏庭の肉屋”の店主になった米野智人さん ©️中島大輔

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